「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」ネタバレ感想! 腕毛のオッサンに泣かされるとは思ってなかったよ

 

劇場版ポケットモンスター みんなの物語(特典なし) [DVD]

 

最初に言っておくと、俺ポケモン映画基本好きじゃないんですよ。言うほど数も観てないんだけど、観た作品はどれも正直何が面白いのか全く分かんなかったです。みんなが「もはや子ども向けじゃない!」とか言って絶賛する「ミュウツーの逆襲」も、去年まさかのリブートで世代直撃の人に刺さりまくったらしい「キミにきめた!」も、全部真顔。だからポケモン映画は合わないと分かってたし、俺は結局ポケモンに選ばれた存在じゃねえんだ…もうポケモンのターゲット層じゃなくなっちまったんだな…と悲しくなったりもしてました。でも、配信されるポケモンが手に入らないのは嫌なので、ここ数年はポケモンを受け取るためだけに映画を観に行っていて。この時もゼラオラ受け取り終わって、「早く終わんねえかなあ」とちびちび抹茶ラテ飲んでたらもうオープニングから「あ、これ絶対泣くわ」と気づき、ラテを一気飲みして映画に全集中。そして見事に死ぬほど泣いた。

そもそも俺がポケモン映画苦手なのは、常にサトシが中心にいるのが原因でして。サトシが正しい答えを見つけ出す話ならいいんだけど、俺が観た映画はどれも”サトシの言うことが絶対”みたいな空気があった。要するにポケモンの扱いを間違えてる悪者に対して、サトシがその名の通り彼等を諭すってのがお決まりで、変わるのは出てくるポケモンと山ちゃんの役柄だけ。ある意味毎回「サトシの物語」に帰結するクセがついちゃってるような気がして、ここを違和感なく受け止められるかがポケモン映画を好きになれるポイントかなと思っていて、俺はそこから外れたわけです。ポケモンのファンの方は多分映画全部観てる方も多いから異論もあるかもしれませんが、俺はやっぱりポケモン映画に苦手意識があって。それは大幅に方向転換した「キミにきめた!」ですら払拭できませんでした。

しかし、その苦手意識を一発で吹き飛ばしたのがこの「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」。みんなの物語ってどんなタイトルだよとか公開前にこき下ろしてた俺は殴られて当然。言うなれば「サトシの物語」からの脱却として、ここまで分かりやすくパンチの効いてるタイトルはねえよ。そう、この映画のタイトルは「みんなの物語」が大正解。一昨年までのように漢字に無理してカッコいい読み仮名を当てなくていい。「もうカッコつける必要はないんだ! 着飾らないそのままでいいんだよ!」ってところまで含まれてるように聞こえる最高のタイトル。

 

 

「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」ミュージックコレクション

「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」ミュージックコレクション

 

 

オープニングで泣いたっていうのは、あんなに新キャラが多いのに全員の特徴と葛藤・コンプレックスや気質、その全てが10分程度で丸ごと把握できる見事な構成になんですよ。去年と同様にサトシとピカチュウとロケット団以外を全員追い出して、もはやお前らで図鑑埋められるわってくらい特徴ありまくりな外見のキャラクターを大量生産。しかし、こんなにいて大丈夫かって心配は一切無用。ホント、はじめの10分の凄まじいまでのキャラ紹介に圧倒される。ひれ伏す。もうこの時点で、「あ、彼等が自分の枷を取っ払う話なんだな」って予想はついちゃうんだけど、それを一つ一つ丁寧に演出していって、確実にANDかなり強めに涙腺を握りつぶしてくる。

特にカガチ。

まさかポケモン映画で腕毛ボーボーのおっさんに泣かされるとは思わなかった。もう出だしで姪に見栄はって嘘ついてる時点でちょっと泣く。その後もコイツのせいで散々周りが引っ掻き回されていって完全なるトラブルメーカーと化すんだけど、もう俺はずっっっっとコイツの嘘がバレる瞬間を待ってる。バレ待ち、その一点だけがこのキャラクターをどんどん魅力的にする。トリトにパシフィック・ヒムされて1位を勝ち取った大会でも、ゴルダックに襲われて逃げるウソッキーに自分を重ねててもうダメ。カガチは誰かを守るためとかそんな綺麗な嘘つきじゃなくて、ただ見栄を張るためだけの嘘つきという最悪パターンなんだけど、実はそんな自分を嫌っていて、彼についてくるウソッキーのためを思って「ついてくんじゃねえ」とか言っちゃうサイコーなおっさん。こういうピエロ役、多分子どもには面白いおっさんとしか思われてなくて、劇場でもずっとうるさかった子どもがおっさんのシリアスパートは全部ジュースタイム。あと15年経ったらお前もカガチに泣かされるんだぜって、心の中でつぶやいてました。誰だよ。

とまあ、そんなカガチをはじめとして、キャラクター全員に乗り越えるべき壁が用意されていて。それがセリフだけじゃなく細かい所作で表現されてるせいでこっちはもう常に泣き待ちなんだよ。早く泣かせろ! 泣かせろ! と大人げもなく騒いでしまいそうになってもうダメなんだ。そして終盤、サトシの「ポケモンパワー」の一言で全員のピースが見事にハマっていくことで、それまでの伏線が大爆発。この爆発のためにひたすら溜めまくったエネルギーが全部襲いかかってきて大号泣。老若男女問わず全キャラが俺の涙腺を殺しにくる。助けてくれえ!

ただ、こっからいつものポケモンになる。人間を憎むゼラオラがサトシたちを拒絶するも、ポケモンを必死に庇う姿を見てサトシや人間たちを受け入れる。デジャヴかと思う展開にちょっと冷めるんだけど、これも含めて「みんなの物語」なので全然いいです。要するに過去のポケモン映画のお決まりもちゃんと踏襲していて、既存のファンを置き去りにしない辺り非常に好感が持てる。逆に変に俺向けになってたらそれはそれで嫌なので。
ただ、最後には結構不満があるというか。カガチ好きな俺はやっぱり姪っ子との仲直りが見たかったわけですよ。エンドロールの横でも良かったから、後日談が観たかった。リサとサトシだけエンディングの後に映像あるのはずるいよ。平等にしてくれよ。みんなの物語だろ?? それまでが緻密に構成されていたが故にここが非常に残念。

構成の緻密さで言えば、いっつもの映画は何にでも首突っ込むサトシが絶対正義になってるのが本当に腹立つんだけど、今作では大会で2位(カガチが不正したので実質1位)という箔がついてるおかげで、すんなりと街に溶け込んでるのが良かった。ご都合主義がほとんどなくて整合性がちゃんとくっついてる。それでいて複数の個性豊かなキャラの群像劇になっているので、本当の意味で「誰もが楽しめるポケモン映画」になってるとこがすごい。観たらきっとキャラの誰かを好きになってるはず。

「キミにきめた!」が大ヒットしたから次はルギアで行こうっていうセオリーと、「サトシの物語」からの脱却というある種のタブーを同時に踏んで、ポケモン映画の裾野を大きく広げた素晴らしい作品でした。今年は「ミュウツーの逆襲」のリブートみたいだけど、俺はあの映画の良さもイマイチ分かってないので、できれば完全新作でお願いしたい。

 

 

 

劇場版ポケットモンスター みんなの物語 (小学館ジュニア文庫)

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