Netflix映画「嵐の中で」ネタバレ感想! ハッピーエンドっぽくしてんじゃねえよ

Netflixを適当に観てみたらオススメ欄にあった「嵐の中で」という映画。あらすじを読むにタイムパラドックス的な話だと察しすぐに鑑賞したのだが、これが結構残念な出来。焦点がブレブレで、話の軸がどこにあるのかさっぱり分からない。誰目線でストーリーを追えばいいのか悩んでいるうちに、主人公のベラとニコの間で元の世界(ベラに娘がいた世界)に戻すか否かが論点になるのだけど、その決着のつけかたもほぼうやむやに。タイムパラドックスに巻き込まれた主人公の苦悩だけでなく、事件の真相やベラのおかげで助かったニコの人生など、様々な事象に言及していくのだけどそれがうまく絡み合っていない。一つ一つやれや、という感じ。

 

話としては、引っ越し先にあったテープを媒介に嵐の夜に約30年前に生きる少年・ニコと通じるようになったベラが、彼が殺人事件を目撃した後車に轢かれて死んでしまうことを忠告したせいで、タイムパラドックスに巻き込まれるというもの。しかもニコが車に轢かれなかった世界線では、ベラには愛する娘はおらず夫すらも自分を認識してくれていなかった。つまりベラはこの世界では完全に別の人生を歩んでいたのだ。この辺りはタイムパラドックスものではお決まりというか、最早説明不要なバタフライエフェクト。過去の些細なことを変えてしまったせいで、未来が大きく変わるというやつ。でも、ニコを救った程度のことがどうしてベラの人生に影響があるのか。それは後々明かされる。

 

しかしこの映画、ベラが時間改変に戸惑う描写が長すぎる。娘はいない、経歴も違う、家も違う、夫だったはずの男は取り合ってくれない。もちろん意味がないわけではないのだけれど、正直ここまで混乱する主人公をひたすら見せられても、どうしていいのか反応に困る。確かに最愛の家族を失ったベラの動揺は計り知れないものがあるだろうが、私たち視聴者と唯一同じ目線を持つ彼女がここまで取り乱すのはいかがなものだろう。警察に取り合ってもまともに話を聞いてもらえないベラ。そりゃそうだろう。あらゆる場所で不審者扱いをされ逃げ惑う生活を続ける彼女だったが、ニュースで自分らしき人物がモデルになった小説のことを知る。それで作者に会いに行くと、どうにもこの作者はニコから話を聞いてそれを文章にしたようなのだ。

 

で、ここからが問題。ベラはなぜかその小説家に意見を求める。「元に戻るためにはどうしたらいい?」いや、待ってくれ。確かに世界がガラッと変わって戸惑うのは分かる。そんな中で自分の不思議な体験を理解してくれる人が現れたらつい相談する、これも分かる。でも、だからって彼女が言った「おんなじ状況を再現しなさい」なんて言葉を安易に信じるか? ていうか自信満々に解決法を教えてくれるババアは一体何者なんだよ。そんなん「よくフィクションで見るから」程度の理由だろ絶対。この辺りで急に映画としてのリアリティーというか緊迫感が失われ、ご都合主義の予感がプンプンしてくる。

 

そしてババアの言葉を信じたうえでタイムリミットまで設定してしまうベラ。だからそのババア無敵論の根拠はなんなんだよ。そして彼女の行動によってニコが目撃した事件の犯人(ニコの隣に住む男による妻殺害)がついに逮捕される。ここで事件の全貌が分かるのだけれど、この事件がベラにとって何の関係もない。映画の要素としては非常に重要だが、主人公が能動的に解決しようとしたわけでもなく、その結果がベラが元の世界に戻ることに直接つながるわけでもなく。しかも食肉センターの持ち主の男がそこに殺した妻を隠そうとしたという猟奇的な事件をにおわせておいて、実情はただの痴情のもつれ。この事件に関する登場人物たちの葛藤も描かれはするけど、この映画の主人公はあくまでベラなのだから、やけにディティールをしっかりと作りこんでるなあ以外の感情が湧かない。というかこの事件への凝り方なんなんだよ。

 

で、事件の真相を通じて衝撃的な事実が発覚する。ベラが出会った刑事であり、事件の犯人を追い詰めた男こそが、何を隠そう大人になったニコだったのだ。まあ確かに衝撃ではある。ここからが本題。実はこの世界では、幼少期に自分を助けてくれたテレビの中の女性=ベラを想い続けたニコは彼女を探して、ついに接触することに成功したのだ。そしてそれがベラの人生の分岐点となり、やがてニコとベラは愛し合うようになる。つまり、ベラが幼少期のニコを助けたことが自分の人生を狂わせる直接のキッカケとなってしまっていたというオチ。意外性はあるが、問題はここから映画の正義感が揺らいでいくことである。

 

これまではベラが元の人生を取り戻すことがこの映画のゴールだった。しかし、その世界ではニコとベラは出会うことがないどころかニコは車にはねられて死んでしまう。ベラの娘が存在しない世界に生きるニコにとっては、今のままベラを失わないことこそが望みなのだ。この2つの望みは相反するもので、絶対に交わることはない。ただ、この展開を始めるのが遅すぎた。きっとこの映画のメインテーマのはずなのに、何故か遅れてやってきたこの揺らぎは、結果的に映画の完成度を著しく低めている。

 

元の世界に戻りたいベラと今の世界を維持したいニコ。視聴者はこの狭間で揺さぶられるが、当の本人たちは決定的に相手を思いやる気持ちが足らない。足らないというか、こんな状況に陥ったら自分もそうなるんだろうけど、だとしてもここまで相手の気持ちを考えない関係はいかがなものだろう。そして、話は平行線をたどったままベラがビルから飛び降り自殺を決行。それを見たニコはベラの幸せを考え、嵐の夜に過去の自分に接触。世界を元に戻し、ベラは今までの生活を取り戻した。しかし、一つだけ違うのはニコが生きており、ベラと接触はしていないものの刑事としてまっとうな人生を歩んでいるということ。

 

いや、あんなにベラの混乱を丁寧に描いておいて最後はニコの優しさに全部振り切る? 普通しないよそれ。というかベラも賭けに出すぎだし本当に死ぬつもりだったというのもいかがなものかと。で、こっちも大人ニコの正体が判明したのがラスト30分くらいなものだから、最後の彼の決意にカタルシスが生まれないまま、「いい人だなー」程度の感想で終わる。いや本当に殺人事件に時間を割いている場合じゃなかったんだって。

 

というわけで、かなり肩透かしをくらった本作。2時間という長尺をまるで活かしきれておらず、構成が全然なっていなかった。人物と事件が異常に多いせいで完全に渋滞を起こしている。これドラマとかだったらまた違ったかもしれない。でも映画だと詰め込みすぎで、どうにも感情が喚起されない。NetflixのSFって微妙なものが多いのでそろそろ重厚な作りのものが観たいなあと思う今日この頃です。