映画「万引き家族」感想! アカデミー賞ノミネートも納得の素晴らしさ

万引き家族

 

実は是枝監督の作品はかなりとっつきづらいと感じていて、意図的に観ないようにしていた。「そして父になる」や「海街diary」などの近年の話題作も全く観ていない。実はこれにはキッカケがある。私が初めてそして唯一観ている是枝作品が「海よりもまだ深く」なのだが、日本を代表する監督の最新作なのだから観ない手はないだろうと劇場に向かい、いざ鑑賞して呆然となってしまった。というのも、非常に感覚的な映画なのである。まあ、『海よりもまだ深く』は是枝作品の中でも比較的知名度が低い方なので、そこまで観客に評価されてはいないのだろう。だが映画館に頻繁に足を運ぶ私にとって”期待していた映画が全く響かなかった”というのは、致命傷でして。もうそれ以来是枝監督の作品は自分には合わないと思って一切観ていない。

 

 

 

 

それなのになんでこの『万引き家族』は観たのかというと(結局劇場には行かずレンタルだったが)、単純に「話題だったから」。根っこがミーハーなのでアカデミー賞ノミネートまでいってしまうとさすがに是枝恐怖症も治まった。そもそも『海よりもまだ深く』の時も、苦手意識を持っただけで映像表現や監督としての実力はかなり評価している。ただ、エンタメ映画ばっかり観てるとそれがどうも虚しく感じることもあるわけで。そういった意味での”苦手意識”。

 

しかし、『万引き家族』は私と是枝監督を隔てた『海よりもまだ深く』とはまるで違った。他の作品を知らないので監督の特徴がどうと言える立場ではないけど、少なくとも『万引き家族』に関しては傑作。もう黙らざるを得ない。

 

そもそも映画の予告とかでは、万引き常習犯の一家が虐待されてる近所の女の子まで誘拐しちゃって〜〜みたいなエンタメチックな宣伝してたわけだけど、中身は完全に是枝。ザ・是枝。設定だけだったら福田雄一とかでも全然やりそうだけど、あの雰囲気は是枝監督にしか出せない。

 

万引き家族というタイトルは言い得て妙で、実は彼らは家族ではない。拾った女の子は当然として、実は家に住んでるほとんどが赤の他人。リリーフランキーと安藤サクラは夫婦みたいな関係だけど、おそらく籍はいれていない。松岡茉優は樹木希林の彼氏(or旦那)の浮気相手の孫で、彼女の両親には海外にいると伝えてある。やけにイケメンな少年は駐車場から昔リリーフランキーと安藤サクラが盗んできた子ども。しかもこの関係性がじわりじわり明かされていくので観てるこっちの頭は大混乱。

 

この家族関係もだが、前半の情報量が圧倒的に少ないのが特徴的。説明的な場面が全くないので登場人物のセリフから人物背景や関係性を推し量っていくしかない。脳をフル回転させて鑑賞する必要がある。だが、ぼーっと観ててもこの一見幸せそうな家族が何かしらの爆弾を抱えていることはわかる。それは万引きや誘拐や風俗勤めの松岡茉優や樹木希林のいないところでのリリーフランキーの軽口などなど。このように、幸せな暮らしの裏であらゆる箇所に火薬が詰められているのだが、それが樹木希林の死によって一気に爆発する。とんでもない量の火薬が詰められたこの映画はマイケル・ベイも土下座するレベルの大爆発を起こし、こちら側はその落差と情報量にぐいぐい引き込まれる。

 

それまでは大自然を流れる河のごみを拾うだけでよかったのに、突然ごみ屋敷に駆り出されてしまう。「いや、言ってたけど…」「確かにおかしいとは思ってたけど…」の連続が緊迫感と心地よさを携えてやってくる。散々振り回された脳内がこの答え合わせでようやく着地点を見つける。ジャンルは人間ドラマだが、上質なミステリーでもある。

 

しかも謎解きにとどまることなく、家族の、特にリリーフランキーと少年のドラマを重点的に描き前向きに幕を下ろす。血縁関係のない繋がりに悩んでいた少年が、施設を抜け出してまで”父親”に会いに来るのだ。

 

登場人物の”道徳的に”正しくない決断の連続が観ているこちらの胸を打つ。後ろめたさのない日々を過ごせる唯一の場所だったはずが、少年の怪我で思わぬ事実が明らかになり、彼らはバラバラになる。彼らは犯罪を肯定できるほど強くない。しかし、罪を背負うことでしか生きられなかった。一見ミステリー風にもとれる”幸せな家庭の闇”が、『万引き家族』という後ろめたさを認めるタイトルのおかげで見事なドラマを生む。

 

日陰に育った彼らの決して正しいと呼べない生き方。それをこんなにも優しく描いた映画はなかなかないだろう。是枝監督が醸し出すリアリティが相乗効果を生み、彼らの存在感を際立てる。前述の通り是枝作品は苦手だったが、やはり日本を代表する監督というだけのことはあった。

 

 

万引き家族

万引き家族

 

 

 

そして父になる

そして父になる