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映画『ミッドサマー』評価・ネタバレ感想! 少女が失恋を乗り越える最悪の物語

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『ヘレディタリー 継承』のアリ・アスター監督最新作、『ミッドサマー』が遂に公開。あらすじを説明するのも難しいし「とにかく観てくれ!」というタイプの作品なので、一番いい宣伝文句が「ヘレディタリーの監督の最新作」という形に落ち着いてしまう。早速観てきたのだが、もうそれはそれは恐ろしいというか。アリ・アスター監督の芸術センスが抜群に光っており、もうどうしようもないのだ。よくぞこの人を映画監督にしてくれたという気持ちと、よくもコイツを映画監督にしてくれたなという気持ちがせめぎ合う。ヘレディタリーを観た人はきっともうアリ・アスターという名前を聞くだけであの奇妙な感覚に囚われるようになってしまったと思うが、この『ミッドサマー』もその期待を裏切らない恐るべき作品となっている。マジでこんな話を作れてしまう才能とそれを映像に落とし込んでしまう実力に脱帽を通り越して恐怖。

 

恐怖だの怖いだのと言ってはいるのだが、実際私の評価としては世間が言う程「恐ろしい」という感覚は抱いていない。『ヘレディタリー 継承』に関しても、正直に言えばホラー映画とは少し異なると思っている。それでも私がこの監督の作品に強く惹かれるのは、圧倒的な芸術センスと印象が強すぎるビジュアルのせいである。『ヘレディタリー』で言えば、冒頭に死んだはずの祖母が薄っすらと映る場面・長男を誘導する奇妙な光・妹の気味悪さ・憑依された母親が天井にくっついて屋根裏部屋の入り口を頭で打ち付けるシーン・母親の最期・パイモンに憑依されることを知った長男が「え、俺が…?」と言いたげななんとも言えない表情を浮かべて終わるラストシーンなどなど、挙げるとキリがない。

 

正直物語としては「あー、自分勝手なお祖母さんが家族全員犠牲にして悪魔を召喚しようとしてたって話ね」と納得してしまえるのでそこまで目新しさも感じなかったし、夜中に一人思い出して怯えるような怖さもなかった。だが、それでも脳裏に強烈に焼き付くビジュアルは、数あるホラー映画の中でも突出している。日本で言うなら蜷川実花である。そんなヨーロッパの蜷川実花が次に手掛けるのは、北欧を舞台にしたカルト宗教の儀式に巻き込まれるカップルの物語。これも『ヘレディタリー』と同様、物語としては簡素なのだが、やはりそれを補って余りある映像のインパクト。なんとなく先が見える物語でも、奇抜なビジュアルがそこに新鮮味を与えてくれる。しかも今回は『ヘレディタリー』とはテイストが真逆でほとんどの事が明るい中で起きる。笑顔の人々、綺麗な花飾り、雲一つない晴天、こんな夢のような空間を、アリ・アスター監督はここまで歪に演出できるのだ。おかげで一時も目が離せなくなってしまう。

 

物語の解説や伏線に関しては、映画の公式サイトになんとネタバレ解説のページがあるのでそれを読んでもらいたい。ここで私がああだこうだと解説したり予想したりするよりもよっぽど有意義なはずだ。

 

というわけで、今回はあくまで私の感想を。

 

話としては大雑把に言えば失恋を乗り越える少女の物語。かなり暈したが、実際そうなのである。明らかに末期なカップルを含む4人のメンバーがとある村へと赴き、その儀式に翻弄され巻き込まれてしまうという内容。最初こそスウェーデンの広大な景色に目を奪われていた彼らだったが、次第に村人たちの度が過ぎた儀式に寒気を覚えていく。

オープニングから村で儀式が行われるまではただ不穏な映像が続くだけなのだが、この映画の恐ろしい一面は既にオープニング前の時点で見ることができる。それは主人公ダニーの家族の死。妹が自殺を図り、それに巻き込まれる形で眠っていた両親も死亡。言葉では説明しづらいが、この演出が既にこの映画が只者ではないことを知らせる。と同時に、ダニーと恋人の関係がうまくいっていないことも示唆されているという見事な導入なのだ。

 

そこから村の72歳の2人が崖から飛び降りるシーンの衝撃。この規模の映画であそこまでの顔面破壊が見られるとは。おじいさんの方は落ちても死ぬことができず、下にいた村人にハンマーで潰されて死ぬことに。すっかり油断していたのでこのシーンの衝撃がとても強い。その後も村のおかしさが次々と露わになる。村から出るのを必死で止めようとする村人、旅行客が消えたタイミングで登場するミートパイ、一人だけ明らかに色の違う飲み物、細かくセリフで説明はされないのだが、明らかに「やべーーーーーー!」のオンパレードが長回しを多用した独特なカットで演出されていく。なのに全体的にはすごく綺麗な景色が見えているというアンバランスさ。

 

そしてクライマックス。仲間のうち一人は教典を盗撮した罪で、一人は大切な枯れ木に小便をした罪で失踪。そんな中ダニーは村人と同じ服を着せられ、最後まで踊っていた者がクイーンとなるという奇妙な儀式に参加することに。そして見事にクイーンとなる。そこからの食事シーンの不穏さも恐ろしい。また、村人の女性に気に入られたダニーの彼氏は誘惑を受け入れてその女性と性交することに。しかし彼女が待つという部屋に行くと、敷き詰められた葉と花の上で寝そべる彼女を、数人の全裸ババアが囲んでいた。彼女が喘ぐごとに何故か胸を押さえて共に喘ぐババア。「え、これ笑ってはいけない〇〇ですか?」と聞きたくなるほど強烈な映像だった。ボヨボヨの全裸ババアは『ヘレディタリー』でもちらっと登場しましたね。今回はその10倍のババアを楽しむことができる。

 

そんな彼氏の姿をドア越しに見てしまったダニーは失望し嘔吐。そして最後の生贄の決定権を持った彼女は迷わず彼氏を選ぶ。仲間3人と旅行客2人、72歳の老人2人、そして生贄を志願した2人の計9人が並べられ、ダニーの彼氏は何故か熊の皮を着せられてそのテントごと燃やされる。熊の皮を着せられたまま燃やされるというビジュアルもそうなのだが、「え、何で俺熊なん?」と言いたげな彼の顔が忘れられない。ヘレディタリーの長男のラストと通ずるものがあった。そして彼の死を見届け、ダニーはにんまりとほくそ笑む。これが映画のラストシーン。そう、この映画は失恋を乗り越える少女の物語なのだ。きっと最も残忍で最低なビターラブストーリーである。

 

アリ・アスター監督自身もこの映画を失恋の経験から作ったと明言している。とはいえ失恋からこんな物語を思いつける監督の頭の中はかなり異常なのだが。しかしネタバレ解説を見ると、劇中の儀式などは多くが実際に過去行われていたもののようで、そういった意味ではかなり深みのある作品なのかもしれない。だが、そんな予備知識はなくともあの強烈なベッドシーンを見てしまえばもうこの映画の虜になる。笑いと恐怖は表裏一体だというが、私はあの場面で声を上げて笑いそうになってしまった。

 

というわけで、ホラー映画を観に行ったつもりの人にはどうだったんだろう、とも思うが作品の出来として観たいものが観られた感はあり、非常に満足。アリ・アスター監督には今後もこの調子で映画を撮り続けてもらいたいものです。

 

 

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