90年代を彷彿とさせる懐かしさ! Netflixアニメ『キャノン・バスターズ』評価・ネタバレ感想!

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Netflixで配信が開始されたアニメ『キャノン・バスターズ』。全12話という手軽さのおかげでたったの2日間で完走することができた。昨今のテレビアニメはテレビ放送だけでなく、見逃し配信や極端なものでは地上波放送前に配信が始まるものもあるが、世界各国で猛威を振るいレンタルビデオ店を次々と閉店に追い込むNetflixは、更に新たな視聴方式で私たちを楽しませてくれる。それが全話一挙公開というシステムだ。1週間待つ必要もなく、ドンと一気に1クール分が公開されてしまう。しかも新作が次々と発表されるので時間泥棒どころか最早人生泥棒と言ってもいいレベル。

 

基本的にはドラマや実写映画のコンテンツが多いNetflixだが、このキャノンバスターズはアニメーション。原作はレショーン・トーマスのアメコミで、アニメ制作はサテライトなどが請け負っている日米合同制作の作品。トーマス氏はインタビュー映像で『日本のアニメを片っ端から観ていた』、『80年代前半や90年代に観た作品の数々に影響を受けている』と語っているが、本編もどこか懐かしさを感じさせる作りになっており、その頃のアニメーションが好きな人なら味わい深いものになっている。しかし、平成生まれの私にはピンとこなかったというのが正直な感想で、いやこの題材ならもっともっと面白くできただろうと考えてしまうのだ。

 

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簡単に物語の内容を。

王国が魔術を使う怪物たちに襲撃を受け、親友のケルビー王子と離れ離れになってしまったアンドロイドのサムは、王子を救うために共に戦う仲間(友だち)を探す旅に出る。サポートロボットのケイシーと旅を急ぐ途中で出会ったのが、がさつで臭いお尋ね者で、しかも不死身の男、フィリー・ザ・キッド。サムは彼を半ば一方的に友だちに認定し王子の元へと向かうが、実はフィリーには王子の国と浅からぬ因縁があった。道中で酒を飲めば飲むほど強くなる伝説の侍、ナインと出会い、更に絆を深めていくフィリー達。一方で家来のオーディンに救われたケルビー王子は、安全な旧城跡へ避難するために歩みを進めていた。

 

全12話でフィリー、サム、ケイシー、ナインの過去や素性が少しずつ明らかになるという構成で、基本的には1話完結のエピソードになっている。キャラクターたちが一堂に会するラスト2話だけは前後編で、フィリーと王子の因縁、それに対するサムの行動が主軸となって更に戦いを盛り上げる。既に観た人も多いと思うのでネタバレを避けずに言うが、フィリーは家族をケルビー王子の王国に殺された過去を持っていることが中盤で明らかになる。そのためサムの扱いに悩んでいたが、最終的には王子の元へ案内させて彼を殺害しようと決意した。要はこの「復讐の相手と仲良くなってしまう」という葛藤がメインの物語なのだが、そういった暗い展開はあっさりとしていて、どこまでも陰陽の陽を大切にしたストーリーが展開されていく。

 

しかし、いかんせんこのアニメは派手さに欠ける。味わい深い趣は感じ取れるものの、カタルシスがほとんど来ず、なんとなくな描写で困難を乗り越えてしまうため、エンタメとしての面白さが薄まってしまっているような気がするのだ。

第2話でいきなり人の皮を剥いでスカートを作るという狂気に満ちた家族が現れるというグロテスクさ。ただ、それは同時にフィリーに「不死身」以外の特徴がないことも決定づけてしまった。彼が不死身なのは家族の死後に「契約」をしたためで、おそらくこれは王国を襲撃したロック達と同様に魔術に関連するものなのだろう。死ぬ度に身体に回数が刻まれ、第1話時点で20回以上も死んでいる。しかし、それ以外はこれといった特徴もなく、大して強いわけでもないし、不死身というアドバンテージをまるで活かさない。ただの死なない人でしかないのだ。サム達を疎ましく思いつつもなんやかんやで旅を続けてしまうという優しさはあるが、それは王子殺害という目的のためでもある。もっと主人公っぽさをとまでは言わないが、いつも捕まって何度も殺されてを繰り返していて、非常にワンパターンな扱いになってしまっている。

 

対してサム。ヒロインではあるものの彼女の行動力が物語の基盤になっており、また緊急時(友だちがピンチに陥った時)にはキャノン・バスターとして多彩に変形し、脅威の対象を粉々にするビームを放出する。本人にはその自覚がないが、作中ではおそらく最強スペックの持ち主。反対にその性格は純粋かつ鈍感で、まったく空気が読めない。当初はいかにもお姫様然とした性格だったが、フィリーと関わるうちに悪口や皮肉を覚え、より人間らしく進化していった。最初の友だちで親友であるケルビー王子を一途に想う気持ちなど、感情描写が最も光っているキャラクターで、彼女が人間らしくなることがこの物語の縦糸の1つなのだなとハッキリと分かる。

 

サポートロボットでメカニックのケイシーは、声の可愛いマスコットキャラクター程度の扱いだと思っていたが、メイン回でその息の詰まるような出自が語られて見方が変わる。自分は珍しいタイプのロボットだと自負していた彼が、実は大量に廃棄処分された旧型だと知り、他者を救うために死を受け入れる姿は心に迫るものがある。フィリーの乗っている牛型ロボットに変形する車で敵と戦う最終決戦は見事だった。

呑兵衛のナインは登場話数こそ少ないものの、圧倒的な実力の持ち主でキャラクターを印象付ける。ただ、行動の動機がイマイチ不鮮明なため、「飲んでばっかだけど強くてかっこいい」以外の感想が浮かばない。登場時に語られた侍たちの末路から考えるに彼が抱える闇も相当深いと思うのだが。最終決戦でも突然現れ、駆けつけてきてくれたことは嬉しいけどお前いたならさっさと出て来いよとツッコんでしまった。

 

そんな個性豊かな面々に対して、王族のクズ度が非常に高いのもこの作品の特徴。

国王は一見して民を愛する模範的な王のようだが、その実は庶民の女と子供を設けるような男。その息子が捨てられた報復に魔術を身に付け王国を火の海にしてしまうのだから自業自得である。この辺りに関しては息子(ロック)側からの視点しかないため、もう少し詳細が明かされて国王は実は聡明な方だったという展開があるのかもしれない。

しかしケルビー王子はダメ。何をしてもダメだ。実力もないくせに敵に立ち向かう無謀さ。自分の命令を聞かない家来のオーディンに対して「俺は王子だぞ!」と言い放つ傲慢さ。極めつけは彼を想ってはるばる旅を続けてきたサムに向かって「君はただのアンドロイドじゃないか!」とまで言う始末。コイツだけは許してはおけねえ。典型的なお坊ちゃま育ちが見事なまでのクズを生んでしまった。途中まではオーディンとしか絡みがないため、彼の個性も非常に薄いのだけれど、それでも滲み出てしまう嫌な奴感。最終話ではサムに謝っていたけどそんなことで済むような言葉じゃなかったぞ。

 

そんなキャラクター構成なので、サムをアンドロイド扱いする王国(ケルビー王子)サイドと共に旅を続けてきた友だちと認めるフィリーサイドという構図なのかなと思いきや一筋縄ではいかなかった。そもそも全12話と言いながら完全なクリフハンガーなので、フィリー達はまだロックと会話すらしていない。オムニバス形式に時間を使い、肝心の決戦はラスト2話に凝縮されている。だからこそ、10話かけて積み重ねてきたキャラクターが見事に交錯する最終決戦が盛り上がるのだが。

 

ただ、やはりカラッとしすぎていたなあという思いは残る。フィリーのサムを利用して王子を殺そうとすることへの葛藤とか、ケイシーにとってサムが最初の友だちだったこととか、うまく演出すれば壮大な感動に持っていけそうなところをサラッと流してしまうのがこの作品なのだ。それもあって、ケルビーがサムをただのアンドロイドとしか見ていなかったことが発覚する(薄々気づいてはいたけども)シーンはとても印象深い。もちろんキャラクターの心情描写についてこれくらいの扱いが妥当だという意見もあるだろうが、私としてはイマイチ盛り上がりに欠けるなあと感じてしまった。大体が敵に捕まるか逃げるかキャノン・バスターが何とかするかという感じなので、もっとこう「言葉にはしないけど仲間を大切に思っている」ような描写がそれぞれにあればなあ、と。よくよく考えると、フィリー達の会話ってふざけたシーンが多くて切羽詰まった場面があんまりない。それを特徴と捉えるか弱点と捉えるかがこの作品を好きになれる境目だろう。

 

結局分からないことも多く、明らかに2期を作る気満々なので打ち切りだけは勘弁。心情描写には不満もあるが、あらゆる種族が存在する世界観やジャズ風の音楽は非常によかったので続編も頑張ってほしい。2期はできればバトル成分を多めでお願いしたい。

 

 

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