実写化としてどうだったか? 映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』評価・ネタバレ感想!

かぐや様は告らせたい 1 ~天才たちの恋愛頭脳戦~ (ヤングジャンプコミックス)

 

ヤングジャンプで連載中の人気漫画『かぐや様は告らせたい 〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』が遂に実写映画化である。冬にテレビアニメが放送されたばかりで、正にノリにのってると言えるだろう。しかも大人気のKing&Princeの平野紫耀と橋本環奈のW主演。その他にもティーンに人気のある若手俳優を据え、ヒットさせる気満々である。だが、問題なのはこの作品が恋愛よりもコメディの要素が強いということ。そもそも青年誌の連載作品なので、かなりオタク向けの展開が繰り広げられるのである。しかし、やはりというべきか予告では一風変わった恋愛ものとして宣伝され、まるで少女漫画原作かのような顔をしている。そう、頭脳戦は既に始まっていたのだ。

 

マンガが実写映画化される際、よく取り沙汰されるのが”実写化批判”である。キャラクターのイメージにキャストがそぐわない、テキトーな改変をするな、衣装がコスプレにしか見えないなどと、原作を愛する人たちが様々な声を上げる。ただ、私自身は実写映画がどうであろうと原作に影響を及ぼすわけではないので、その辺りは特に気にならない。むしろ1作の映画としてどうか、原作の要素をどう落とし込んでいるかを確認するのが実写化映画を観る醍醐味だと思っている。

ただ、やはり物語には適切な表現方法があるなということは強く痛感した。『かぐや様』はやはりマンガ的な物語であり、実写でこれをやるのは非常に痛々しい。特に浅川梨奈演じる藤原書記、マンガやアニメにおいてはトラブルメーカー&和ませ役という重要なキャラクターだが、この映画では大した活躍はないためにキーキー声で喋るウザいやつ程度の印象しかない。石上のオタクっぽさもかなり表面的で、原作で描かれた彼の深みを知っているからこそ、残念な気持ちになる。

 

そういう意味で、実写化映画としてはハズレの部類であると思う。かぐやと白銀以外のキャラクターは全て表面しか描かれることなく、アニメ的に誇張されたキャラづけが物語から浮いてしまっている。世界観を纏められなかったという意味では実写化は失敗である。

逆に良かった点は原作のいくつかのエピソードをシームレスに繋げている点。『かぐや様』の原作は基本的に1話完結のため、テレビアニメでも30分の1話に原作3話分が詰め込まれたサザエさん的構成となっていた。2時間の映画でやるからには短編集では困るなと思っていたが、適度に改変を加えながら独立した物語をうまく繋げていたのは好印象。石上も最初から登場していて、また違った『かぐや様』の物語を楽しむことができた。

 

原作で1つの到達点として絶大な支持を受けているのが花火大会編。何もなかった夏休み、突如発案された花火大会を楽しみにしていた生徒会の面々だったが、父親の言いつけでかぐやがドタキャンしてしまう。かぐやの「みんなで花火が見たかった」というつぶやきを見て、1人「了解」と走り出す白銀。生徒会一同はタクシーとかぐやを捕まえ、別会場の花火大会へ。タクシーの中から花火を見ることに成功しかぐやの望みを叶えるも、当の彼女は白銀の顔に見惚れてしまう、という素晴らしい掌編。それまでひたすら生徒会室でのコメディに終始していた彼らの物語がようやく発展するのである。ちなみに、現在の連載では体育祭や文化祭を通じて白銀とかぐやはかなりいい仲になっている。

 

そんな見事な花火大会編が映画でも描かれるというのだから、実写だろうが何だろうが関係ない。あの花火大会の件に関しては、ストレートな恋愛ものとして通じる凄味があるのだ。内容を知っている私でも感動してしまう圧倒的な構成。これこそ原作の素晴らしさを物語っている。しかし、ここで映画は終わらない。夏休み明けに自分の浮いたセリフを後悔する白銀とかぐやのギャグシーンもきちんと挟まれる。かぐやが倒れ恋の病と診断されるのも原作通り。しかし、ここからオリジナルの展開、生徒会選挙編に突入する。選挙編は原作では新キャラの登場と白銀の優しさを際立たせるための回であったが、映画ではかぐやが会長に立候補。彼女の命が長くないと勘違いした白銀も立候補し、2人は対立。そこでかぐや側だったはずの藤原が白銀に懐柔されているという疑いが出るが、実際にはストレスには踊りが効くと聞いた白銀が彼女にソーラン節を習っているというオチ。藤原書記が白銀にいろいろレクチャーするというのは原作でもお馴染みのギャグとなっているが、これを感動風の味付けで持ってくるとは。そこで互いに相手こそ会長にふさわしいと演説してしまう白銀とかぐや。結果、告白もしないままキスだけをしてエンド。もしや映画オリジナルで告白にまで持ち込むかとも思ったが、さすがにそこまではしなかった。ある意味、続編も作れる終わり方である。

 

脚本のまとめ方は丁寧でよかったが、演出はやはり子どもっぽすぎるなという印象。露骨にティーンウケを狙っているのは元々そのための実写化だろうし別に構わないが、テレビアニメが演出に尋常でないほどの工夫を凝らしていた分、とてもチープに見えてしまう。冒頭から度々挿入される顔面の合成(二頭身になるアニメーション)は見るに耐えないし、かぐやの決め台詞「お可愛いこと」のバックでサイケ的な演出をするのはアニメのパクリでしかも劣化している。間の取り方などにも統一感がなく、客を笑わせる気あるのかと疑いたくなる演出だった。

 

実写化映画としてはそれぞれ100点満点で脚本が80点、演出が20点というところだろうか。コメディ作品を実写化しておきながらその良さをかき消してしまった演出が本当にキツかった。あれで2時間は苦行。

ただ、1つの映画として観るといろいろと上手く繋がっているのでなかなか良くできている。ところどころ原作のマンガっぽさが出てきてしまうのが問題だが、話としてはまとまっている方である。石上の露骨なキャラ改変(過去を説明できるほど時間もないのでただの根暗になっている)は厳しいものがあったが、映画だけの設定なので許せる範囲。ただ、生徒達から嫌われているはずの彼が白銀の頼みとはいえあっさりと選挙で補佐を務めるのは違和感があった。

 

この映画から入った人には是非原作も読んでもらいたい。最初は徹底的にコメディだが、徐々に関係性を爆発させ、奥深いラブストーリーへと発展していく。原作はクライマックスに差し掛かりそうな雰囲気もあるので、読み始めるなら今である。逆に原作・アニメが好きな人はこの映画には触れない方が吉かもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

なめらかな世界と、その敵

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