映画『黒人魚』評価・ネタバレ感想! 人魚ではなく幽霊

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実写版『リトル・マーメイド』のアリエルを黒人女優が演じることが少し前に話題になったが、本作は全くの無関係。人魚伝説をダークに演出したロシア産ホラーで、監督は『ミラーズ 呪怨鏡』のスヴィヤトスラフ・ポドゲイエフスキー。スラヴ神話に登場する水の精霊ルサールカをモチーフにしており、実際には人魚というよりも幽霊譚に近い。登場する「人魚」には鰭や鱗があるわけではなく、ただのずぶ濡れの女性だ。

 

分かりやすさを突き詰めた結果、邦題が内容と全く合致しない現象は最早お馴染みなので今更気にはしない。ただ、ネットのレビューを漁るとやはり「人魚ってなんですっけ?」と僕の私の人魚論を長々と書き連ねる方が散見されるので、厄介な文化だなとは思う。「ロシア全土を震撼させた」は物は言いようということで諦めるが、「ダーク・ファンタジー・ホラー」というジャンルに当てはめているのも良くない。これは日本人の感覚で言えばただのホラー映画。そもそも劇中では一度も「人魚だ!」なんて発言はせず、すぐに湖で自殺した女性の存在にたどり着く。つまり人外による襲撃とか恋愛ものとかをイメージしていると肩透かしを食うことになると思う。私は予告編を観てから挑んだので、幽霊の姿を見て「ただの死霊館だろ」と口に出してしまった。

 

そして肝心の内容についてなのだが、これが非常に薄っぺらい。湖畔に聳え立つボロボロの別荘というロケーションがいい味を醸し出しているのだけれど、これも正直『死霊館』で見た。肝心の人魚(幽霊)もボロボロメイクに瞳の色を黄色という、完全なる『死霊館』。スピンオフを疑ってしまうほどの死霊館度。ただ、入水自殺をしただけあってやはり水を操る能力者としては強い。まず、狙った相手が水中にいれば一瞬で自分のフィールドである湖にテレポートさせられる。最初に狙われたローマがプールで泳いでいると、突然湖に転送されてしまうのだ。また、車に鍵をかけて車内を水で満たし、乗っている人間を溺死させることも可能。更に他人に化ける能力まで持っている。このシェイプシフター能力が非常に厄介で、ベッド脇に恋人がいると思って話しかけたら、部屋に恋人が入ってくるなど、なかなかおぞましいシチュエーションが多い。水と変身を巧みに操るなかなかの強敵。

 

物語の核となるのは「愛」。幽霊の正体は、過去に愛を誓った男性から裏切られたことで自殺をした女性だった。彼女が人を襲う時、最初に「私を愛してる?」と尋ねる。要は愛に飢えた女性幽霊という非常にテンプレートな存在なのだ。この辺りは神話をモチーフにしているわけだし仕方ないのかなと思う。そこで、ローマの母が幽霊の櫛を使って何か儀式めいたことをしていることを知った一同は、大切なもの=櫛を渡す代わりにローマを返してもらうよう交渉する。ローマの婚約者であり主人公でもあるマリーナの機転で櫛は幽霊の元に戻り全てが終わったかのように思われたが、ローマの兄弟であるイリヤが地下室で死亡。事の真相に気づいたローマの姉は、マリーナと引き換えに弟のローマを返してほしいと頼む。そこにローマの父親が現れ、彼女を成仏させるために必要なのは愛だと訴え、幽霊と共に水中へ消えていく。その時、マリーナは持っていたハサミで彼女の髪を切り、偶然にも髪が彼女の弱点であることを知る。しかし、父親に続いてローマの姉も連れていかれてしまう。

 

絶体絶命のローマを救うため、マリーナはハサミ片手に湖へ飛び込み、幽霊とバトル。陸に上がったマリーナは一目散にローマの元へ駆けつけ、彼に問う。「私を愛してる?」。目の前にいるマリーナが本人でないことに気づいた彼は、咄嗟にハサミを手にしてマリーナの髪を切る。するとマリーナは苦しみ、本来の姿である幽霊へと戻り、消滅する。溺れたマリーナを救うローマ。もうダメかと思ったその時、彼女が息を吹き返し、ローマの家族は死んでしまったものの、二人はなんとか助かってエンドロールへ。

 

物語として欠陥があるわけではないが、単純に目新しさを感じられなかった。幽霊の設定も外見も殺し方も、なんだか妙に既視感がある。非常に記憶に残りにくい作品だった。強いて言えば幽霊役の女優が美人なくらいだろうか。エンドロールを含めても90分に満たない作品なので、適当な夜に手ごろに楽しむ分にはいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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