映画『殺人鬼を飼う女』評価・ネタバレ感想! 純文学的なエロスが漂う微ホラー作品

殺人鬼を飼う女

 

大石圭の同名小説を、『リング』などで有名な中田秀夫監督が映像化。大石圭は『呪怨』のノベライズ版も執筆しており、奇しくも日本が誇る二大ホラー作品に携わった2人のコラボということになる。ただ、中田秀夫監督の作品は『リング』こそ社会現象を巻き起こしたものの、その後は鳴かず飛ばずの出来。山田孝之と藤原竜也のW主演作『MONSTERZ』は興行的に振るわず、『リング』を現代的な視点で描いた最新作の『貞子』も一昔前のホラー描写と貞子という看板に頼っただけの、陳腐な出来だった。そう、「あの『リング』で有名な中田秀夫監督のホラー最新作!」と聞いたら我々はある程度身構える必要性に駆られているのである。

 

映画として面白いのは、4つの人格を持つ主人公の、それぞれの人格を異なる役者が演じていることである。ホスト人格のキョウコを演じている飛鳥凛が主役ではあるが、実質的には同一人物を4人の役者が演じていることになる。一人二役ならぬ四人格四役。もちろん第三者がキョウコを見た時にはどの人格だろうとキョウコの顔なので、分かりやすくするためか飛鳥凛が他の人格を演じることはある。斬新な試みであり、同一人物の心の葛藤が二人以上の役者によって演じられるというのも、何気に凄い。多重人格の中に殺人鬼がいるという話はそこまで目新しいものではないが、演出の発想がそこを見事にカバーしている。

 

『殺人鬼を飼う女』というタイトルの通り、キョウコの周りで次々と人が殺され、その犯人が本当にキョウコなのか、そしてキョウコのうちのどの人格なのかというのがメインストーリーで、そこに4人の間に生じる軋轢や、キョウコと隣人の小説家・田島との恋愛模様、母との確執や養父殺しの過去という複雑な人間関係が乗っかってくる。4人の人格は分かりやすくキャラクターが分かれていて、主人格でちょっと内気なキョウコ、キョウコを愛するレズビアンの直美、性に奔放なゆかり、幼少期のキョウコをそのまま反映したようなハルの4つの人格が存在している。

 

田島と仲良くなろうとするキョウコの行動が、キョウコを愛する直美には気に入らない。母親と同名のゆかりは、キョウコの母の愛人を寝取ってしまう。ハルは不気味な絵を描き、田島にキョウコとは関わらないよう忠告する。一見最もマトモに見えるキョウコだが、他の3人の話を総合するとキョウコのダークサイドが垣間見えてくる。純文学的な香りを濃厚に漂わせた物語は、潤沢な濡れ場によって狂気じみて演出されていく。そう、この映画は濡れ場こそが問題なのだ。

 

結論から言うと、この映画は濡れ場で始まり濡れ場で終わる。いきなり全裸のキョウコを直美が舐めまわすのだ。別人格同士の濡れ場なので要は自慰行為なのだが、映画では女性同士の官能的なシーンとなっている。しかし、これがやけに長い。やっと終わったかーと胸を撫でおろすと、数分経って今度は職場の更衣室でおっ始めてしまう。その後もゆかりが母親の愛人を寝取るシーン、映像が母親視点に切り替わり、キョウコが愛人と交わるシーン。そして田島・キョウコ・直美・ゆかりの4人での最後の性行為など、とにかく濡れ場が多い。純粋にホラーを楽しみたかったのだが、ピンク映画を観ているような気分になってしまった。それにしても飛鳥凛、『仮面ライダーW』で敵幹部を演じていた時はまだ垢抜けない容姿だったのに、10年で一糸纏わぬ姿になってしまうとは…。クレイドール・ドーパントに変身していた頃が懐かしい。

 

肝心の殺人鬼だが、その正体はキョウコであった。養父との関係がトラウマになった彼女は、距離の縮まった男性を殺してしまう習性を持っていたのである。養父を殺したことで味を占め、ゆかりが関係を持ってしまった母親の愛人を殺害し、最後には田島すらも首を絞めて殺してしまう。長い濡れ場の後に3人が田島の首を絞めにかかるシーンはどこか美しくもある。というか、大概のシーンが裸体なので不思議と神聖なイメージすら持ってしまう映画なのだ。ハルが田島に、キョウコに近づかないよう諭したのは彼女が無意識に男性を殺してしまっていたからなのである。

 

小説ならとても面白く読めると思うのだが、この映画に関しては濡れ場が多すぎて、肝心の物語がまるで頭に入ってこないのが難点。R18指定とはいえ、本当に大丈夫なのかと不安になる。他人と観たら絶対に気まずくなるだろう。映画館に行かなくて本当に良かったと安心している。内容はまあそこそこ楽しめるくらいなのだが、ポスターやパッケージの、飛鳥凛の顔があるべきところに4人格を演じる女性陣をぶち込んだ構図はホラー感もあってとても良い。遠目に見ても、本来顔があるところに不自然な肌色がぐちゃぐちゃに重なっていて興味を惹かれる。

 

ホラー的な演出はほとんどなく、ホラー成分は物語に依存している形だったので、どちらかと言えばエロを楽しみたい人にオススメ…という風になってしまう。ただ、純文学的な雰囲気や周囲の人間のクズっぷりはとても楽しいので、それなりに面白かった。飛鳥凛は今後もどんどん脱いでしまうのか、中田秀夫は今後もどんどん脱がせてしまうのか。次回の貞子は全裸になっているかもしれない…。

 

 

 

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殺人鬼を飼う女

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殺人鬼を飼う女 (角川ホラー文庫)

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