ミーアキャットスペース

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映画『青くて痛くて脆い』評価・ネタバレ感想! ゆっくりと堕ちていく繊細すぎる吉沢亮

 

青くて痛くて脆い

 

『君の膵臓を食べたい』を実は観たことがないのだが、この『青くて痛くて脆い』はあらすじを聞いて「観なくては!」と思った。『キミスイ』はまあよくは知らないけど病気とかラブストーリーとか高校生とかの話でしょ、という固定観念があってどうも観る気が起きなかった。衝撃的なタイトルの真相とは!、みたいな宣伝が何か鼻についたというのもある。でも今回は大学生の話でしかもウェイ系サークルをぶっ壊してやろうぜぇ的な俺たち向けのノリだったし吉沢亮がダークな役やってるのもサイコーだったので、公開から1週間遅れてだけど観に行った。

 

正直まあサスペンスの皮を被った青春映画でしょと舐めてかかってたんだけど、観たら心がボロボロになった。こんなこと言うのはおこがましいんだけど完全に映画の中の吉沢亮と自分がリンクしてしまってもう恥ずかしいやら悔しいやらでどうしようもない。世間の評価はまずまずって感じなのに俺はもう心を丸ごとぐちゃぐちゃにされて、これで泣いたら自分の人生を認められなくなる気がしてずっと涙を堪えてた。鼻水は無理だった。こんなに気が滅入る映画は久々。

 

主人公の楓は人を傷つけないように深く関わらないよう生きていくことをモットーとしたちょっとネガティブ過ぎる大学生。今風な味付けです。そして、人と関わることを拒んでいた彼が出会ったのが、本気で世界の平和を願っていてしかもそれを声に出しちゃうイタイ女・秋好。この授業中に変な質問して教授を困らせるタイプの学生いるよな〜って序盤の空気がもう堪らない。大学生だったことがある人はみんな分かるであろうあの感覚。中学生高校生のクラスメイトという繋がりとはまた違うんですよ。

 

そんな秋好に流されるままに、2人で平和を目指すボランティアサークル「モアイ」を立ち上げる。最初は嫌々だった楓も段々と秋好に心を惹かれ、いつしかモアイの活動は彼にとってかけがえのない時間となっていく。そんなある日、突然秋好が亡くなり、モアイはいつの間にか社会人に媚を売るだけの就活サークルへと成り下がった。4年生になった楓は、自分の大切な人と居場所を奪った今のモアイへの復讐を企てる。

 

まずこういう調子に乗ってる大学生をぶっ潰そうぜなノリがサイコーで、それを究極イケメンの吉沢亮が担ってるのもなんか社会全体が援護射撃をしてくれてるみたいで嬉しい。楓には自分が作ったサークルを奪われたという大義名分があるのだけど、その友達の岡本天音は「気に食わねえんだよな」くらいの感情で作戦に参加するこの距離感が絶妙。就活サークルと化したモアイの描写もマジで気合が入っているしBBQとか懇親会とかっていうイベントだけでなくて、リーダーの演技も本当に良かった。多分ああいうサークルに入ってた人にはこの映画は響かない。逆に吉沢亮的なポジションにいた人には死ぬほど刺さる。刺さって死ぬ。後は隠し撮りシーンだったりのサスペンス劇もちゃんとドキドキハラハラさせてくれるので良し。

 

で、この映画の肝になるのが秋好が生きていたことが発覚するシーン。「あ〜死んだっていうのは俺の中で死んだって意味ね」と納得するし、実際楓なら作劇の都合とかじゃなく本当にそういう言い方しそう。観客を驚かせるのは当然なんだけど、このシーンで楓のヤバいやつ度がぐんぐん上昇していくんですよね。だって復讐とか大義名分作っておいて実際にはただ妬み嫉みから来る逆恨みだっただけなんだから。もうこっからはひたすらダークサイドに堕ちていく吉沢亮を堪能するのみ。

 

そこから岡本天音がモアイのリーダーと隠れて飲みに行ってしかも彼らに毒されて後輩に手出しちゃう、とかもありそう。ああいうリーダーみたいな人って、外から見るとすげえ嫌なやつなんだけど接したらいい人に思えちゃうんだよね。結局人身掌握が上手い。そこからいろいろ展開していくのだけど、細かくは割愛します。最終的に楓はモアイのリーダーが手に入れた個人情報を企業に横流ししていることを知り、それを暴露して見事モアイを炎上させることに成功。内心ほくそ笑みながら秋好が開いた説明会に行って、遂に彼女と対峙する。

 

このシーンが素晴らしすぎてもう言葉がない。BGMもなく、ただただ吉沢亮と杉咲花の言い合いが続く。楓は秋好に裏切られたと思ったからその復讐をした。でも秋好からすればこんな形で怒りをぶつけられても、というすれ違い。というか楓側の感情が重すぎるんですよね。こんなんもうBLで使うレベルのキャパ。人と深く関わらなかったがために、踏み込んできてくれた人を独占したくなってしまったんだと思うんだけど、かなり拗らせてしまっていてどうしようもない。でもその幼稚さがどこか自分と重なっていくようで観ていて吐き気まで覚える。安全圏にいたはずなのにいつの間にか自分が刺されてる感覚、朝井リョウの『何者』も同じでした。

 

単純に心情の変化で言えば、誰とも関わらなかった楓が秋好に振り回されるうちに彼女に好意を抱き、そのせいで彼女に恋人が出来ただけで落ち込み、いつの間にか話し辛くなっていったのを全て人のせいにして復讐するというヤバい奴なんだけど、この心情描写の丁寧さと物語の構成の上手さでぐんぐん物語に引き込まれる。マジで主役の拗らせ方じゃないよこれ。悪役がやるやつだから。仕舞いには秋好に「気持ち悪い」とまで言われてしまうんだけど、秋好って人に暴言吐いたり怒鳴ったりしないキャラクターに思えるので、そこまで言えたのは楓だからこそなんじゃないかなとも思う。

 

「人間関係なんてどれも間に合わせ」という言葉。要は人はその場その場で都合のいい相手を見つけるだけ、というかなりネガティブな考え方なんだけど、このセリフに一点集中で映画自体を否定する人がいたので、それは違うんじゃないかなーと。この映画はそういった間に合わせ的な人間関係が描かれてはいるけど、それを絶対的なものとはしていなくて。むしろ楓なんかは人を間に合わせとして見ることを良しとしていないし、そのことに怒っているキャラクターなんですよね。そして象徴的なのが、謝罪会見(?)での秋好の言葉。「友だちと会う口実を作るような」と当初のモアイのことを表現しているのだけど、この言葉自体が間に合わせではなく楓との時間自体を求めていたことの証左だと思う。そして、その言葉で自分が間違っていたことに気付いて駆け出す楓の姿で泣きそうになる。

 

誰も傷つけないために人との関わりを避けてきた主人公が、人と関わったことで好きだった人を傷つけてしまうまでの物語。こう言ってしまえば簡単だけど、その行く末はとても暗い。どんどん堕ちていく楓を見ていられないけど、世界が皆が彼を拒絶するエンドも見たくない。そんな複雑な感情の先に訪れたゴールは、あの楓が積極的に人間関係を修復しようとする明るいものだった。互いに間に合わせではなかったからこそ、深く傷つき傷つけてしまった。それをやり直そうと秋好を追いかける楓の姿が眩しく見えて、なんだか救われた気持ちになる。

 

『ぐらんぶる』以上に高解像度な大学生活の描写、主人公が堕ちていくという構図、それをサラッとやってのける吉沢亮の演技力、観客を驚かせる試み、必要以上に伝わってくるテーマ性。どれをとってもかなりの出来だと思う。やはり『キミスイ』も一度は目を通しておくべきなのだろうか。

私も、所属していたサークルが年々人が入れ替わっていく中で疎外感を感じるようになった一人なので、吉沢亮の孤独感が痛いほど分かってしまう。分かりたくはなかった。人から好意を向けられても、それをマトモに受け止められない。その好意が自分以外にも向けられていると知っているから。復讐してやるとまで思うことはなくても、彼の感じたガッカリはきっと多くの人が知っているものだと思う。知らない人にはこの映画は刺さらない。どっちがいいかという話になるとまた別だが…。

 

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