ミーアキャットスペース

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映画『ソウルフル・ワールド』評価・ネタバレ感想! ピクサーが贈るとてつもない人間賛歌

「ソウルフル・ワールド」オリジナル・サウンドトラック

 

 

コロナウイルスによって大打撃を受けた映画業界。鬼退治をする炭売りの少年がなんとか頑張ってくれてはいますが、依然として厳しい状況は続いている様子。その余波を受け、劇場公開ではなくDisney+での配信となってしまったピクサー最新作の『ソウルフル・ワールド』。クリスマスに配信開始ということで、いろいろ頑張ってくれてはいるけれど、いやあでもこれは劇場で観たかった。音楽(ジャズ)を大々的に推しているわけだし、劇場の音響で楽しみたかった。もしコロナさえなければ、予定通り劇場公開できていたら、きっともっと多くの人が観てくれていたと思う。

 

なんで配信になってしまったことをこんなに惜しむかと言うと、めちゃくちゃ感動したからである。2020年の映画で一番泣いたかもしれない。ピクサー映画では間違いなく一番泣いた。ピクサー作品は8割くらい観ていると思うのだが、その中では一番好き。それどころか、人生で観た映画の中でも上位に食い込むレベルである。

映画館で予告が流れていた頃から、ジャズに人生を懸けた中年男性の物語という点に強く惹かれてはいた。次のピクサーの主人公、おじさんなの?と少し心配になってはいたけど、夢を追う中年が持つ煌めきが物語になると途端にパワフルな感動作になることをなんとなく肌で分かっていたのだ。中年男性、現実では体臭だの態度だので嫌われることが殆どだけど、やっぱり一人の人間ですからね。

 

でもそんな心配は杞憂に終わった。誰が観てもきっと面白い。いや好きじゃない人は好きだろうけど、「おじさんの話かよ~」で観るのを辞めた人に「勿体ないよ!」と強く言えるほど誰にでもオススメできる映画に仕上がっていた。前作の『トイ・ストーリー4』は、現代のディズニーの方向性を強めに打ちだしたことで、シリーズが貫いてきたテーマをいとも簡単に打ち破ってしまう矛盾に満ちた作品だった。4作目で制作陣が変わるという裏事情もあるのだろうけど、やはり納得がいかなかった人も多いと思うし、この転換はピクサーファンにとっては愛していたキャラクターを無下にされた裏切りだったかもしれない。でも、ピクサーにはまだ素晴らしい才能と実力が残っていた。その実力を見事に発揮したのがこの新作『ソウルフル・ワールド』。だからこそ! 劇場公開がなかったことが! 惜しい!

 

物語はジャズミュージシャンを目指す黒人の中年男性ジョー。いかにも冴えない男という見た目のナス型頭の人間。彼を主人公にしたのはマジで英断だったと思うけど、作品を観終わった後だと、この冴えない風貌が大正解に見えてくるから凄い。ミュージシャンになる夢を捨てきれないままに非常勤講師として子ども達に音楽を教えている彼は、遂に憧れの音楽家と一緒に演奏することになる。夢が叶ったと有頂天になっているところで、足を滑らせてマンホールの中に落ちてしまう。魂だけの姿になり、あの世へ連れていかれようとするも、それを拒んで道からまたも落下。その先はまだ人間になる前の魂が集まる世界だった。そこで出会ったのが、生きる意味が分からずに何世紀もその世界に立ち止まっている22番。ジョーは生き返って演奏するために、22番は生まれないために。互いの利害は一致したことで、彼らはとんでもない冒険に出ることになる。

 

魂や死は『リメンバー・ミー』でも扱われたテーマ。そういえば音楽が重要な要素になっているのも符合している。『リメンバー・ミー』では、死者の想いを紡いでいく生者がテーマとなっていた。しかし、今作では死という概念にそこまで立ち向かわず、敢えて淡く描いているのが印象的。あの世へのベルトコンベアーに乗せられても誰一人文句も言わず進んでいく。「死にたくない!」と逃げ出すのは夢半ばで死んでしまった主人公のジョーのみ。

魂を扱った作品ではあるけど、死というよりも生きることの描写、それも何気ない人生の一コマに力を入れていて。それが何故かというのは映画を最後まで観れば分かるし、この映画のテーマからして至極当然な流れ。

 

 

 

 

この感想を読んでいる人はもう映画を既に観ていると思うので細かいストーリーは今更不要でしょう。なのでひたすら感想を書いていきます。

 

夢に固執するジョーと生きる意味に執着する22番の旅は、「生きる意味などない」という結論を導き出す。それは否定的なニュアンスではなく、人生には目的や夢などなくても、一瞬一瞬が「きらめき」であるという意味。ジョーが心理学者のフリをした後、ボタンを押してジョー自身の人生を博物館のように見ていくシーン。一人でソファーに座ってテレビを観ていたり、一人でレストランでご飯を食べていたり。叶わぬ夢を追う彼の姿は、22番にとってもそして自分自身にとってもつまらないものに映った。しかし、映画の最後にジョーはそんな日常の一瞬一瞬を大切に生きることを誓う。そして、色あせていた日々が、途端に輝いて見えてくる。

 

私たちの日常も、正直つまらないことばかりである。いやそうじゃない人もいるだろうが、少なくとも私はそうである。SNSを開けば加工された他人の人生が広がっており、なんだか勝手に羨ましくなるし、送り手側も人から羨んでもらうことを狙っている。貴重な体験をした、夢を叶えた、会いたい人に会えた、という特別な経験はきっと人生を豊かにしてくれるだろう。だが、演奏が終わった後のジョーのように、帰りは地下鉄に乗り、一人寂しく自宅に帰るのだ。夢に固執していたジョーは、夢を叶えたことでようやくそのことに気づく。見方を変えることで、世界は大きく変わるのだ。外を歩く、空を見上げる、髪を切る、人と話す、そんな何気ない日常も大切な人生の一欠片なのである。

 

別れる前に22番に罵声を浴びせてしまったジョーは、帰って22番のことを想う。ピアノを弾き、ゾーンに入ることでまた向こうの世界に行く仕掛け、きちんと伏線が効いてて最高。そこで22番を救うため、彼は22番が手に取った落ち葉をバケモノとなった22番に見せる。生きる意味を探し求めていた22番に、そんなものは必要ないんだと説くのだ。そうして救った22番に許可証を返し、22番を生まれさせることに成功する。「自分は夢を叶えたから」と。そして、ジェリーの計らいにより復活したジョーは、再び現実世界に戻り、今度は一瞬一瞬を大切に生きようと誓うのだった。

 

端的に言えば、とてつもない人間賛歌である。奇しくもコロナウイルスによって外出が制限され、自宅での生活を余儀なくされた人々に向けてのメッセージにもなっている。個人的にも大好きなテーマだったので、終盤は言葉一つ一つが胸に刺さり大号泣だった。

監督のピート・ドクターは5年前に『インサイド・ヘッド』も監督している。こちらは、カナシミを悪い感情だと決めつけて喜ぶことこそが人間の最上の感情だと信じて疑わないヨロコビが、他の感情への理解を示す物語だった。他者理解、そして一般に否定的に思われているものを美しく描こうとする彼の姿勢は、本作でも貫かれている。『インサイド・ヘッド』は中盤までのヨロコビの態度がウザすぎたので結構キツかったのだが、本作ではジョーのキャラづけが「夢に燃える男」となっているので、ストレスなく観ることができた。途中から彼が22番に罵声を浴びせたりと、段々と違和感が芽生えてくるのも良かった。

 

インサイド・ヘッド (吹替版)

インサイド・ヘッド (吹替版)

  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: Prime Video
 

 

 

夢を追うこと、夢を叶えることは確かに素晴らしいことかもしれない。でも、人生はそれだけじゃない。ジョーと仲が良かった床屋の、元々は獣医になりたかったというエピソードが象徴的だった。人間は、何かになるために生まれてくるわけでも、何かを成し遂げなきゃいけないわけでもないのだ。もっと好きに生きていいし、そういう日常だけで構成された人生がもっと評価されるべきだと思う。そういう意味でも、中年男性のジョーが主人公に選ばれたのは、ベストな選択だった。

 

とにかく物語のテーマ性も、きちんと張られた伏線も、独創的なアイデアも、全てが完璧でケチをつけるところがない。逆にケチをつけるところがあるなら教えてほしいくらいである。それくらい私にとっては素晴らしい映画なのだ。

細かい点もよかった。

ソウルたちのカウンセラー、ジェリーと死者の数を数えるテリー。線で描かれただけのキャラクターがこんなに魅力的に見えるのが凄い。線だけで表情や個性が出てくるのも凄い。高次存在の格を落とさないまま、なんか好きになってしまう微妙な塩梅。人間の性格を作っているのに、自己中を一気に10人くらい作ってしまうのめちゃくちゃウケた。この映画、全体的にブラックジョークが多いのも個人的にはポイント。

テリーが心電図や信号機に紛れる描写にはワクワクしたし、テリーはあの神経質そうなキャラクターも楽しい。それなのに最後数をごまかされても気づかない天然な感じ。日本のアニメだとああいう高次存在って悪い奴ばかりなので、久々にこのフラットな感じを楽しむことができた。

 

後は音楽。単純だが、現実世界でジャズが轟き、ソウルの世界では無機質な電子音声に切り替わる。だからこそ、ジョーの演奏シーンが一層意味を持つし、心に響く構成になっている。でも、ソウルの世界での曲も結構耳に残るし、JUJUの日本語版主題歌もすごくいい。その後ラップが流れるのはちょっとよくわかんないし、瑛人の『愛に満ちた世界』も映画の世界観とズレているのが気になるのですが……。サントラは発売もされているし、各サブスクでも配信されているので、映画を観た方はぜひ通して聴いてほしい。

 

 

 

というわけで、言いたいことはまだまだあるしとにかく大感動したんだけども!

でもやっぱり、あれだけ夢の世界を描き続けたディズニーやピクサーが「何気ない日常」を美しいものとして捉えて大傑作を作ってくれたことが嬉しい。「役割からの解放」をテーマに掲げていたディズニーが、遂に夢や煌びやかな人生からも僕たちを解放させてくれる! そのことにただただ感謝しかない。

今後ディズニーランドにソウルフル・ワールドコーナーができるときはマジでただのピザ屋と床屋とジョーの部屋を設置して至る所にテリーを忍ばせてほしい。当然ソウルの世界もセットで。

 

 

ソウルフル・ワールド (小学館ジュニア文庫)

ソウルフル・ワールド (小学館ジュニア文庫)