日本のドラマも捨てたもんじゃない! 映画『劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD』評価・ネタバレ感想!

 

劇場版おっさんずラブ?LOVE or DEAD? オフィシャルBOOK

 

社会現象にまでなったのでタイトルだけは知っていたのだが、私が観始めたのはつい先週の話。映画があまりにも話題になっているので、ミーハー気質が疼いた結果ドラマ版を観てこの波に乗ってみようと軽い気持ちで鑑賞すると全く止まらなくなってしまい、たった2日で全7話を終わらせてしまった。あそこまで話題になった作品なら万人ウケを狙ったものだろうとたかを括っていたのだが、これがまあ見事なエンターテイメントで、申し訳ない気持ちでいっぱいである。ラブコメのお約束を男同士で繰り広げるコメディパートと、春田・部長・牧の三角関係を丁寧に描いたシリアスパートの配分が完璧で「おっさんに告白されちゃった〜」というギャグもここまで丁寧に磨き上げれば日本中を魅了できるのかと感心させられてしまった。

 

そんな『おっさんずラブ』の劇場版だが、サブタイトルは『LOVE or DEAD』。メインの5人が並び立つポスターは背後でハート型の爆炎が上がっているし、予告映像でも春田が牧に肩を貸すシーンでやはりバックに炎が上がっている。連続ドラマの映画化がスケールアップするのは恒例だが、これに関しては内容が全く想像できないせいで疑心暗鬼に陥ってしまう。だが、やはりおっさんずラブはどこまでもおっさんずラブであり、テレビ版の綺麗なラストを全く汚さないどころかキャラクター達を前向きに推し進めるアプローチ。痒いところに手が届くどころか、全身をもれなく掻いてもらっているような感覚だ。

 

 

劇場版おっさんずラブ?LOVE or DEAD? オフィシャルBOOK

劇場版おっさんずラブ?LOVE or DEAD? オフィシャルBOOK

  • 作者: 2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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最初にも述べたが、『おっさんずラブ』の魅力はコメディパートとシリアスパートの絶妙な配分にあると私は思っている。その上で田中圭をはじめとした演者たちの魅力が光り輝いていき、ドタバタボーイズラブコメディがエンタメの最高峰へと昇華されていった。それは劇場版でも例外ではなく、恋愛もののお約束を片っ端から弄り倒す強欲さと登場人物たちの心情を丁寧に紡ぐ繊細さが結びつき、更には劇場版ならではの要素としてアクション映画のパロディにまで手を出すという、一歩間違えれば大事故寸前の出来なのである。そもそも部長が春田を諦め、春田が牧にプロポーズするという美しいラストの続きが世に出ること自体、非常に危険性が高い。しかし、劇場版は「結婚」という言葉の重みをそれぞれが受け止めるという見事な着地を迎えていた。と長々しく書いてしまったが、一言で言えば伝説。コント仕立ての物語に見せかけていつの間にか春田と牧の気持ちが痛いほど伝わってくるという強力な罠が張られているのだ。

 

冒頭、道端でぶつかった相手が同じ営業所の配属だった~という超ベタな出だしから、狸穴を筆頭とするジーニアス7なる存在が現れ、その一人が本社に戻った牧という衝撃の展開。しかも春田はそれを何も知らされていなかった。仕事に集中したいがために春田との関係に悩む牧と、牧が自分に全く相談してくれなかったことを気にする春田。テレビ版から地続きの物語であるため、牧と春田はラブラブである。春田の人の好さと田中圭のスマイルが爆発する指輪追いかけシーンも最高。春田と牧が立場的にも精神的にも離れてしまうという構図は、テレビ版の彼らを知っているからこそ涙を禁じ得ない。彼らが世間の目を乗り越えてたどり着いた関係の先に、こんな現実が待っているとは…。しかも春田に「お兄ちゃんみたいですね」と笑いかけるジャスが登場し、狸穴は牧のことが気になる様子。その上、階段から落ちた部長が春田のことだけを忘れてしまい、もう一度彼を好きになってしまう。部長は春田が牧を選ぶことを認めた後で、どう物語に入ってくるのか楽しみだったが、まさか記憶喪失とは。春田との思い出を全て忘れた部長は、テレビ版と同様にちょっと厄介なヒロインとして大活躍。

 

そして何より素晴らしいのがサウナのシーン。まずこの前段階のジャスに嫉妬してビンタする部長がだいぶ面白いのだが、その後突然春田とジャスがサウナで隣り合っているという衝撃展開。肌色成分全開でいちゃつく二人が面白すぎる。ジャスがサウナを出たところに何故かタオルで胸まで隠した部長が登場(根は乙女だけどあくまで男性なのでこれはやりすぎかとも思うが、ビジュアルでやはり笑ってしまう)。そこに部長が記憶を失くしたことを知らない牧が現れ、「諦めたんじゃなかったんですかぁ!?」とキレ気味で啖呵を切る(ここの林遣都の表情が満点)。更には狸穴まで参入し、ヒートアップした彼らはひしゃくで水をかけ合う。アドリブを疑ってしまうほどの絶妙なテンポ感が最高だし全員半裸なのが尚面白い。円盤化の際はサウナシーンをディレクターズカット版でお願いしたい。

 

 

劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ シナリオブック

劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ シナリオブック

 

 

 

コメディパートが極端に面白すぎたが(すぐ暴力を振るう部長が面白すぎる)、シリアスパートもそれに負けず劣らず力が入っている。仲直りした春田と牧は一緒に花火大会に行くが、その途中でついに春田の怒りが爆発。狸穴への嫉妬を抑えきれず牧に当たってしまうが、対する牧も募らせた不満を春田にぶつける。結局別れてしまった2人。春田は指輪を川に投げ捨ててしまう。それを見たジャスが春田に説教をする。彼の両親と兄は不慮の事故で亡くなっており、ジャスは兄との最後の会話がケンカだったことを後悔していた。ジャスが春田を「お兄ちゃんみたい」と言ったのは、亡くなった大好きな兄の面影を重ねていたのだろう。その後、春田は狸穴に個人的に呼び出され、彼が突然宣言したジーニアス7の解体は、協力会社が薬物に関わっていたことを知ったためだったと聞かされる。しかも会長の一人娘が誘拐されているというトンデモ展開。ここからアクションパートに突入する。

 

敵に捕まった春田を助けるため、牧と営業部は春田の元へ向かう。会長の娘がおかずクラブのゆいPというキャスティングが素晴らしい。これまでは春田が恋愛関係に巻き込まれる側だったが、今回は春田の行動が全員を事件に巻き込むことになる。そして、炎に包まれる春田と牧は、互いの胸の内を吐露する。ここでこの映画が、「男同士の結婚」という理想しか描かなかった春田と、今後の二人の関係を現実的に捉えすぎた牧のすれ違いの物語だったという構図が明らかになる。男同士の結婚は現代の日本ではまだ不可能であるが、春田はそこをしっかりと考えていなかった。逆に牧は仕事で追い詰められたせいもあって現実問題2人でやっていけるのか不安に陥っていたというわけである。しかし、どんな障害や弊害があろうと春田と一緒にいたい、牧と一緒にいたいという思いを新たにし、彼らは再スタートを切る。今回のラストではテレビ版と同様、またしても春田と牧に別れが訪れる。それでも互いを想う気持ちは変わらない。ラストをファーストネーム呼びとキスシーンで終わらせる演出がニクい。

 

春田と牧がテレビ版で選んだ「結婚」という選択肢を更に深掘りし、その上で部長や武川、蝶子たちには新たな可能性を投げかける。更に爆発やアクションシーン、アクション映画のパロディなど映画的な魅力にも溢れていて、まさにエンターテインメントのお手本のような作品。映画を観てこんなに笑ったのは久々かもしれない。BLであることを逆手にとってコメディチックに物語を進めつつ、ドラマパートもきっちりと仕上げてくるこの完成度の高さは何なのだろう。これ以上の続編は望まないが、同じ制作陣で是非また新しい作品を作ってほしい。配信サービス等が幅を利かせ、「日本のドラマは人気俳優に頼っているだけで~」という言説も多く見かける昨今だが、それでも面白いものは面白いのだ。

 

 

 

 

おっさんずラブ(1) (KCデラックス)

おっさんずラブ(1) (KCデラックス)

  • 作者: 山中梅鉢,TVドラマ「おっさんずラブ」(制作:テレビ朝日脚本:徳尾浩司)
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/03/13
  • メディア: コミック
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