コメディというにはあまりにもチープでつまらない 映画『引っ越し大名!』評価・ネタバレ感想!

 

引っ越し大名三千里 (ハルキ文庫)

突如国替えを命じられた姫路藩は、書庫にこもって本を読んでばかりいる片桐春之介を引越奉行に任命。無理難題を押し付けられた彼が仲間の助けを得て奮闘するというコメディ映画。あらすじだけ聞くとどうしても『超高速! 参勤交代』を連想してしまうのだが、調べてみるとなんと原作者が同じらしい。それはそれで心配になるが、私は『超高速!』を観ていないので、内容がカブっていたところで気にせず鑑賞することができた。時代劇もあまり観ないし、歴史にも疎い。未知のジャンルでもあるため、ある程度は楽しく観られるだろうと期待していたのだが、結果はかなり退屈。コメディなのにスピード感が全然足りず、スベりそうになるとガヤの笑い声で誤魔化す始末。引っ越しという難題にどう立ち向かうかという展開の仕方は上手いのに、コメディ部分は愛想笑いすらできないほど真顔にさせてくる。そんな具合で、陽の部分は邦画の悪しき慣習を詰め込んだかのような闇鍋なのだが、陰の部分、シリアスパートはなかなかよくできていて、コメディなどと謳わず正統派の映画として宣伝すればよかったのになあと思ってしまう。

 

この映画は、生涯で7度も国替えを繰り返した松平直矩という実在の人物がモデルになっている。小説化するにあたって誇張や改変も多くあるだろうが、領地を減らされた辺りは本当の様子。この時代の細かい歴史や特殊な用語などは映画の公式サイトでも解説されており、そういう意味では時代劇をあまり観ない人に対してハードルは下げられている。星野源や高橋一生といった俳優を起用したのも、時代劇から想定される客層とは別の層をターゲットにしているのだろう。予告編などもコメディらしさを前面に押し出しており、子どもでも分かりやすく楽しめるように思える。ただ、そのコメディ成分というのが明らかに陳腐で、原作は読んでいないが、うまくまとまった作品に無理矢理笑いの要素を付け足したようなチグハグ感があった。

 

春之介がこれまで国替えを率いてきた男を訪ねるも、既に死亡していた。その娘の於蘭に資料がないかと訊ねると、父の手柄を横取りした侍の言葉を聞こうともしない。しかし、父の墓参りをする春之介の姿を見て、彼に協力するようになる。於蘭と鷹村と中西のサポートによって順調に国替え計画を進める春之介。運ぶ物を極力少なくするため、各家々を回っては不要なものを捨てていく。次は商人から金を借りるため、中西の作ったリストで最も金を持っていそうな新吉を訪ねる。誠意を持って土下座を、無事に八千両を借りる春之介。残りの金を集めることは諦め、本来雇うはずだった人馬を節約し、侍たちを平民に偽装することでなんとかやりくりをしようとした。この映画は、於蘭の持つ資料を元に、読書家の春之介が歴史上の戦術を使って次々と難題を解決していく痛快さが特に際立っている。時代劇らしく、春之介を追い込もうとする悪人を成敗するシーンもあり、知恵と工夫でうまく彼らを言いくるめる春之介の姿はどこか頼もしくもあるのだ。

 

だが、いかんせんテンポが非常に悪く、ギャグにキレがない。あれだけの役者を揃えながらアドリブ等はおそらくなく、脚本と演出の力だけで笑いを生み出そうとしてしまっている。私が素直に笑えたのは廊下を走る高畑充希がフェードアウトしていくシーンだけで、あとは全く笑えなかった。更に悪いのがBGMである。木琴をポコポコ叩いたような軽い音が全編にわたって鳴り響く。そもそもギャグシーンでいかにも「笑うとこですよ~」というようなBGMを使うこと自体、だいぶかっこ悪いと思うのだが、この映画は頻繁にそれを使う。犬童監督は一体どうしてしまったのだろう。『メゾン・ド・ヒミコ』の時なんかはもっとシュールな笑いに寄せていたはずなのに。アクションシーンも何故か盛り上がりに欠ける音楽がかけられ、観客の感情を誘導するどころか鑑賞を阻害してしまっている。予告編で散々聞かされたあのキレのいい三味線のような音色が響く曲はどこへ行ってしまったのだろうか。山寺宏一のハイテンションなナレーションは何故本編で聴けなかったのだろうか。主役は『恋』で一世を風靡した星野源なのに、音楽にここまで気持ちがこもっていないのは、何かの皮肉だろうか。

 

とはいえ、劇場にいたおじいさんおばあさん達には結構ウケていたシーンもあったので、そういった層にしてみれば変にアップテンポで過剰な笑いよりも、こういった静かなギャグの方が効果的なのかもしれない。でも、予告編で受けた印象とはだいぶ違う中身だったようには思う。

 

ただ、前述したようにシリアスパートの演出は見事なもの。ピエール滝とずん飯尾、小沢正悦らが国替えにあたって農民になることを言い渡されるあたりの悲しみや、それを直接伝えなければならない春之介の苦しみは画面から痛いほど伝わってくる。十五年かかって彼らを迎えに行くシーンも、予想はつくもののしっかりと描かれてきちんと感動できる。つまり、ギャグのノリさえ合えばメリハリのついたいい映画だったということになるのだ。この辺りのシリアスさは小説だとより感情が伝わってくるものになっているのではないかなと思う。映画だと、どうしても動きのないギャグの方が強く印象付けられてしまうため、個人的にはあまり映画化向きではなかったのかなと思ってしまった。

 

 

引っ越し大名三千里 (ハルキ文庫)

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引っ越し大名三千里 (1) (裏少年サンデーコミックス)

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「引っ越し大名! 」オリジナル・サウンドトラック

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