映画『拷問男』ネタバレ感想! 意外と手堅い社会派映画

 

拷問男(字幕版)

 

〇〇男というタイトルは昔から使い古されているし、海外のヒーローも〇〇マンというネーミングが多い。しかし、ここまで極端なタイトルはおそらく稀だろう。数々の拷問道具と強い赤色が目を引くジャケットの真ん中に堂々と躍る『拷問男』の三文字。どこか『ムカデ人間』のそれを思わせるこのパッケージからお察しの通り、なかなかにグロテスクな映画だ。だが、この映画はただスプラッター映画好きだけを喜ばせようと作られたわけではないことが、映画を観れば分かってもらえるはずである。主人公がある人物を拷問する過程が説得力を持つからこそ、終盤に集中する拷問描写も意味合いを強めている。

ムカデ人間 (字幕版)

ムカデ人間 (字幕版)

 

 

 

かく言う私もゴア描写目当てでこの映画を観たクチで、特に何の情報も入れずまあ拷問シーンがすごいのだろうという適当な気持ちだったのだが、すぐにそんな軽い感情は消え去ってしまう。主人公デレクは、ある日元妻との間にできたたった一人の愛娘を何者かに殺されてしまう。娘とデレクのささやかな日常、そして明らかに不仲のデレクと元妻のやり取りが、愛娘の死に重みを与える。こんなばかばかしいタイトルなのに、物語の柱が非常に丈夫にできているのだ。朝起きるとベッドから消えている娘、駆けつけるデレクの元妻への怒り、見つかったという情報を聞いた時の笑顔、それが死体だと知った時の悲しみと絶望感。デレクのあらゆる感情が冒頭30分でこちら側に流れ込んでくる。

 

事件から半年が経ったころ、愛娘の死から立ち直りかけていたデレクは、ある日自分の弟の日記を見つける。そこには弟が以前から犯してきた犯罪の記録が克明に書かれており、自分の愛娘も弟の被害者だった。最も信じていた家族が、平気で殺人を犯すクズだと知った瞬間、デレクは復讐を決意。敢えて警察にも何も話さず、一人で弟を苦しめて殺そうと企むのだった。ここからが拷問男の始まり。知人から得た情報をもとに、いかにして苦痛を与えるか試行錯誤し、お手製の膝割り器まで作ってしまう。

 

ここからはゴア描写がきつくなるのだが、前述の通り、そこにはデレクの哀しみと怒りが伴う。ただ猟奇的な内容になるのでなく、拷問にバックボーンがついているのが見事である。弟を6日間縛り付け、毎日異なる拷問道具で痛めつける。何か情報を聞き出すのではなく、相手を苦しませるため、そして自らの心を癒すための拷問であるという事実がこちらの胸を打つ。

 

しかし、最終的には警察にバレてしまい、家に押し入られる。その瞬間に弟を殺すことも可能だったが、デレクは「殺人者はお前だけで十分だ。俺は罪を償う」と拷問を止めて自首をする。ここにも、この映画ならではの人間味が感じられる。愛娘の死で復讐を決意したデレクは、最後の最後に正気に戻り、人として正しい道を歩むことを選んだのだ。

 

エンドロールには、実際に起きた数々の強姦・殺人事件のニュース音声が流れる。これこそ、この映画がただのゴア映画ではないというなによりの証拠だろう。むしろ、社会問題に対し鋭い視点を持っている、非常にクレバーな映画だと思う。ゴア描写に抵抗のない人にはオススメしないが、決して血や臓物に頼っただけのB級映画ではない。最愛の者を失った悲しみが全編にわたって漂う、非常に哀愁の強い映画である。

 

 

拷問男(字幕版)

拷問男(字幕版)