原作を実写で追体験! 実写化映画『惡の華』評価・ネタバレ感想!

 

惡の華(1) (週刊少年マガジンコミックス)

 

世の中には2種類の人間がいる。漫画『惡の華』を読んで気持ち悪いと一蹴する人と、嗚咽を漏らして泣き崩れる人である。私は後者の人間で、映画を観るにあたりもう何度目か分からないほど読んだ原作を改めて開いたところ、またも涙を流してしまった。思春期の鬱屈した感情と、自分が空っぽだと気付いてしまう無力感。共感できる人がいるのと同時に嘲笑ってしまう人がいるのも無理はない作品である。私自身、原作をリアルタイムで楽しんでいた高校時代は周りの人間がバカに見えて仕方がなかった。リアル春日(中学生編)である。しかし、社会人になって読んだ原作はまるで別物だった。春日が大人の階段を上っていくステップが自分と重なり、高校生編で中学時代を清算しようとする彼の決意に心が震えた。当時はよく分からなかった高校生編(分からないなりに涙を流して読んでいた)が、今ではこんなにも気持ちを救ってくれる。改めて『惡の華』は素晴らしい物語だったと痛感した。

 

そんな傑作の実写映画化である。マンガの実写映画化は荒れることが殆どで、その多くは原作との差異を受け入れられないファンによるもの。ファンタジー系の作品はコスプレに見えてしまうし、アクションもチープになる。2次元を3次元に変換するわけなので、私としては仕方ないと思うし、むしろ実写に落とし込むことこそ実写化映画の醍醐味だと思っている。そのため、実写化やめろという言説には否定的で、むしろ実写化で作品の新たな一面が垣間見れることを楽しんでいるくらいである。そもそも実写化されたところで、原作の良さが変わるわけではないので、クソ実写化と思うこともあまりない。映画としてどうだったかという視点を大切にしている。

 

しかも、『惡の華』はほとんど心配がなかった。井口昇監督が8年をかけて作り上げた作品で、春日役は伊藤健太郎、仲村さん役は玉城ティナ。どう考えてもハマり役だし信頼できる監督だ。しかし、『あの花』がどうしても受け付けなかった私には、脚本が岡田麿里で全11巻の物語を2時間に凝縮したという点だけが心配だった。しかし、雑誌で高校生の春日が過去を回想するという出だしを見てガッツポーズをしたものである。物語のアレンジは全くなく、ただ純粋に原作を3次元に変換する。その一点にのみ注力した渾身の「実写化」。そして実祭の作品も、膨らんだ期待を遥かに見事な実写化だった。

 

惡の華(1) (週刊少年マガジンコミックス)

惡の華(1) (週刊少年マガジンコミックス)

 

 

 

原作を読んでいる方なら気づいたと思うが、この映画は時系列こそ入れ替えているものの、基本的には原作に忠実である。展開はもちろん、セリフの細部までも一緒(たまにオリジナルのセリフが入ることもある)。しかも服装や髪形、ノートの記述や本棚の中身までまったく同じ。井口監督の果てしない原作愛は、単純な次元変換として映画を作った。ここまで同じなので、言うまでもなくキャスト陣も原作の本人に見えてくる。さすがに伊藤健太郎のあの体で中学生を演じられるのは違和感があったが(しかも何回か脱がされるシーンがあるので余計に違和感)、精神性や喋り方は春日そのもの。佐伯さんの外見女神・中身悪魔感も素晴らしく、常盤さんの飄々としていながらも小説のことには熱意を燃やす感じもいい。そして何より目を見張るのが玉城ティナの仲村さんである。『惡の華』にとって仲村さんは非常に重要な人物で、他の登場人物が”普通”なのに対し彼女だけが普通でいることを”クソムシ”と罵るキーパーソン。春日を脅迫する女王も中身は一女学生だったという難しい役回りを見事に演じ切っていた。ここまで振り切った玉城ティナを見られる機会もそうそうないはず。

 

ただ、やはり懸念していた通り原作11冊を2時間に纏めるのは少し無理があったかなあと感じた。中学生編は原作の構成要素が漏れなく入っているのだが、開始30分ほどで体操着を盗む、仲村さんとの主従関係構築、佐伯さんとデート、告白、佐伯さん宅訪問が描かれてしまい、確かにどれも外すことができないイベントではあるものの、どうしても気持ちがついていかなかった。原作を読み込み今後の展開を全て分かってはいるものの、あまりにテンポが速すぎて作品に感情が追い付かなかったのである。春日が仲村さんに翻弄される冒頭の恐ろしさこそ、後半の感動に繋がる重要なファクターなのでここが駆け足気味だったのは残念。しかし、その後すぐの教室をめちゃくちゃにするシーンはもう最高。やっていることは最低だし、体操着を盗んだのは僕ですと告白するという酷い内容なのに、原作を初めて読んだ時と同様にどうしても涙が出てしまう。このシーンはじっくり演出してほしかったシーンなので、満足感が高い。それからも、佐伯さんと別れるシーン、夏祭りのシーンなどなど、井口監督は原作でもとりわけ重要な場面にきっちりと時間をかけて演出している。ああこの監督は本当に惡の華が好きなんだなあというのがよく伝わってきた。

 

ただ、高校生編には非常に不満が大きい。確かに高校生編まで『惡の華』の全てを映像化してくれたことは嬉しいが、かなり省かれてしまっている。常盤の彼氏の存在もなく、春日家の家族仲が元通りになるシーンもない。春日の祖父の死もない。それらがなくても成立はするのだが、やはり常盤さんが春日を想うようになるのが急すぎる気はする。思えば、中学生編で3人が会話するシーンも省かれていたので、佐伯さんが何故春日に執着するのかもしっかりと描かれなかった。ただ、この省略は2時間に纏めるに当たって必要なものだし、『惡の華』が春日と仲村さんの物語だと捉えた時に最も省かれやすい場面ではあるので、納得はできる。ただ、やはり観たかったなあという気持ちは残るのだ。特に高校生編は、「ふつうにんげん」へと変わっていく春日と、その周囲の人物の対比が原作では非常に良い効果を生み出していたので、その辺りの機微も実写で目に焼き付けておきたかった。

 

原作の完成度には劣るものの、見事な実写化映画で、また新たな形で『惡の華』という傑作に浸れたことは非常に感慨深い。インタビューなども公開され、作者・押見修造先生の知られざるエピソードも飛び出してくる。『惡の華』はインパクトのある表紙と一般ウケを敢えて排したアニメ化で話題になったが、こういった形でコンテンツが再び盛り上がってくれるのは嬉しい限り。これを機に原作の知られざるエピソードなんかが描かれたら舞い上がってしまう。そして、映画の前に原作を再読し、映画を鑑賞して改めて『惡の華』という作品の持つ底力を痛感した。「クソムシ」「向こう側」「空っぽ」抽象的なワードの1つ1つが作品の中で意味を持っており、言葉にできないけど伝わってくるという受けての感性を強く刺激する作品。ああ、『惡の華』を読んでいて、好きになって本当によかったなと心の底から思えた感無量の実写化映画だった。

 

 

悪の華 (新潮文庫)

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血の轍(1) (ビッグコミックス)

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惡の華 original motion picture sound track

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