Netflix映画「トリプル・フロンティア」ネタバレ感想! 心を徹底的に苦しくさせる映画

 

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「ROMA」がアカデミー賞を受賞し、追い風が吹きまくっているNetflix。そして、また一つ名作が誕生してしまう。それがこの「トリプル・フロンティア」だ。映画好きとしては、ベン・アフレックとオスカー・アイザックとチャーリー・ハナムとギャレッド・ヘドランドとペドロ・パスカルが一堂に会してチームを組むというだけで、既にこみ上げるものがある。役者が分からないという人には、バットマンとポー・ダメロンとローリー・ベケット(パシフィック・リム)とフック船長とウイスキー(キングスマン:ゴールデン・サークル)が共演すると言えばこの豪華度が伝わるだろうか。

キャストの顔ぶれだけで十分渋いこの映画だが、中身もかなり重厚。ストレートなアクション映画ではなく、憔悴しきった退役軍人たちの哀惜を描く、実に心苦しい映画だった。

 

公式サイトではベン・アフレック(レッドフライ)の名前が最初に挙がるが、この物語の主人公はあくまでオスカー・アイザック演じるポープ。南米で麻薬王を殺害し大金を奪う計画を立てた彼が、軍人時代に仲の良かった4人に作戦を持ち掛ける場面から映画は始まる。ポープが一人一人説得していくのだが、そこで垣間見えるそれぞれの暮らしからは哀愁が漂う。レッドフライは不動産の営業、チャーリー・ハナム演じるアイアンヘッドは軍の教官で、教え子に対し毎年同じスピーチをしている。祖国のために20年もの月日を捧げた彼らも、退役すればお払い箱なのだ。現状に不満を抱える彼らにとって、麻薬王の大金は非常に魅力的に見える。しかし、大金を手に入れるには大きなリスクが伴う。彼らの作戦は強盗であり、殺人である。かつて正義を重んじ、軍に仕えた彼らは、大金のために罪を犯さねばならないのだ。殺すのは一人だけ、しかも悪党、そう言い聞かせて自らの欲に溺れ、彼らは作戦への参加を決意する。しかし、実際にはそううまくはいかない。

 

麻薬王に子どもがいることを知り作戦の決行が危ぶまれるが、ポープは既に子どもの外出する時間を調べ上げていた。いざ屋敷に潜入すると、予想以上に人を殺すことになる。そして、アイアンヘッドは脇腹を撃たれてしまう。しかし、壁に隠された大金を見つけ、彼らは我を失ったように金をカバンに詰める。逃げる時間が少なくなろうと、金が優先。4人が頼れるリーダーとして慕っていたレッドフライが、感情的になるのも印象的だ。それほどまでに、彼らにとって目の前の金は魅力的なものなのだ。いや、魅力的なものだったのだ……。

 

屋敷から逃走する際、車の窓越しに麻薬王の子どもと目が合う。そういった気まずさが至る所に配置され、この物語の行く末に暗雲を立ち込める。ヘリに金を載せようとするも、明らかに重量オーバーになる。「こんなところに金を置いていくのか!」とまたしても激昂するレッドフライ。5人の中で最も金への執着心が強いのは彼だ。彼に説得され、仕方なく金はすべて積むことに。しかし、重量オーバーのヘリでは山脈を越えることができない。高度の低い場所を探すも、結局ヘリは墜落してしまう。屋敷に潜入する場面もそうだが、この映画は緊迫感を存分に味わうことができる。それはドキドキワクワクというポジティブなものではない。作戦の失敗により、誰かがもしくは全員が死んでしまうのではないかという一抹の不安だ。

 

ヘリが墜落した場所は、田舎の小さな貧しい村。5人は何とか助かるが、村の住人が金に群がってしまう。自分たちは軍人でそれはこちらの所有物だと説明するも、なかなか納得しない村人をついに射殺してしまう。村長に慰謝料として数百ドルを渡し、ラバに金を載せて村を立ち去ろうとする5人だが、彼らの心には深い後悔が刻まれる。その後も、次々と5人を苦境が襲う。足場の狭い崖ではラバを1頭(同時に金も)失い、ジャングルや山の中を数日間歩き通すことになった。そして、雪山に到着し休息していた彼らは、麻薬王の部下である追手に狙撃される。1人ずつ敵を葬っていくものの、一瞬の隙を疲れ、レッドフライが殺されてしまう。頼りのリーダーを失くした4人の間に軋轢が生じるが、レッドフライを殺したのが追手ではなく、ヘリで不時着した村の住人だったことに愕然とするのだった。

 

その後、彼らは決意する。レッドフライだけは何としても運ぼうと。彼らは金のほとんどを谷底に捨て、仲間の遺体を家族のもとへ返すことにしたのだ。その後も追手との戦いを経て、ついに彼らは船に乗り込み、家へと戻る。手にした金は全てレッドフライの家族へ渡るようにし、結局彼らは大金を手にできず、かけがえのない仲間を一人失っただけに終わるのだ。しかし、最後にアイアンヘッドはホープにある座標の書かれた紙を渡す。おそらくこれは金を捨てた場所の座標で、またいつか彼らは大金のために動き出すのだ。

 

ダンディを具現化したような俳優を5人も使って、しかも全員を元軍人という戦闘力高めの設定にしておきながら、これほど悲哀漂う物語にしてしまうとは……。鑑賞前は退役軍人が金のために作戦を決行し、最後は大金を手に入れ酒を酌み交わす! みたいなノリを想像していたので、より一層物語の哀愁に衝撃を受けた。泥沼化していく状況にとりあえずの打開策は見出すものの、殺人に手を染めた彼らに逃げ場はない。欲に目が眩めば大切なものを失うという教訓めいた映画だった。5人の背景はほとんど語られることがないが、会話の距離感から関係性を推し量ることはできる。だからこそ、レッドフライの死が驚きの展開として機能するのだ。

 

彼らの選択は正しかったのか間違いだったのか。作戦前までは大金を手に入れることに躍起になっていた。しかし人を殺してからは、大金を掴むことでその罪を正当化しようとしていた向きもある。そうして必死に足掻き続けた彼らは、結果的に仲間を失う。演出の泥臭さと緊迫感も相まって、まるで心が落ち着かない映画だった。