『君の名は。』がイマイチだった人間の『天気の子』評価・ネタバレ感想 ヱヴァや響鬼との類似性

新海誠監督作品 天気の子 公式ビジュアルガイド

 

新海監督の最新作だし話題性もすごいしとりあえず観に行くか~と軽い気持ちで劇場に行ったら号泣してしまった。大洪水。『君の名は。』には正直モヤモヤした部分も多くて絶賛されている風潮に嫌気が差していたのだが、この『天気の子』には完全に泣かされた。『君の名は。』がヒットした要因を見つめ直して法則化し、忠実になぞりながら新たな物語が紡がれるのは、既視感と斬新さの見事なハイブリッドでどこか心地よくもある。いやあもうとにかく素晴らしくて素晴らしくて。今年ナンバーワンかもしれない。

 

 

小説 天気の子 (角川文庫)

小説 天気の子 (角川文庫)

 

 

まずは私が『君の名は。』にいまいちハマれなかった理由から。それは単純なことなのだが、時系列トリックの雑さにある。『君の名は。』は日本中で言葉にされまくった「入れ替わってる~!!」というスタートから、徐々に入れ替わりの真実や意図が明かされていき、瀧と三葉の運命的な絆を強調していく物語であった。そこで、観客を驚かせようと起承転結の転として用意された展開が、「二人の生きる時間が異なっている」というもの。これをきっかけに瀧が三葉が既に死んでいることに気づくのだが、あれだけ入れ替わりを繰り返してきた2人が数年の差に気づかなかったことがどうにも不自然に思え、その後の物語にも意外性はなく非常に退屈に感じてしまった。近年流行りのタイムリープ的な要素を挿入し、絵の質感もリアル路線を走っていながら、物語の設定があまり練られておらず勢いを優先してしまう作風が鼻についたのだ。

 

小説 君の名は。 (角川文庫)

小説 君の名は。 (角川文庫)

 

 

 

そして『天気の子』である。さすがにタイムリープ的な要素はなかったが、『君の名は。』に通じるエッセンスが至る所に配置され、更にはそのキャラクターまで登場させてしまうというメタ的にも楽しめる作品だった。ネットの感想を読むと、やはり各キャラクターを見つけようと躍起になっている人もいるらしい。

だが、何より似ているのはボーイ・ミーツ・ガールである点。新海監督の作品はこじらせた恋愛を緻密に書くことで有名だが、今回はその集大成であった。「僕と彼女だけが知っている世界の秘密についての物語だ」という始まりも非常によく、新海監督の芸術性が天気という身近なもので表現される映像美は圧巻。絵画性と文学性は、『君の名は。』より更に上をいっている。

 

田舎を抜け出してきた家出少年の帆高は、東京で100%の晴れ女・陽菜と出会う。彼女には不思議な力が宿っており、天気を自在に操ることができたのだった。しかし、その力には代償があり……。というザ・青春オブ青春の物語。帆高を雇う怪しげな男、圭介(小栗旬)やその姪の夏美(本田翼)が脇を固め、物語はかなり深みのある構造に。

 

私が何より感動したのは、この映画が「大人になること」への反発を描いた作品であるという点。奇しくも公開から2日が経った本日は参院選の投票日だが、大人になるということは税金や労働や法律や、様々なものに縛られるということでもある。この「がんじがらめの大人」像は映画の様々な場面で現れる。娘に会いたいという本心を言い出せずにいる圭介や、就職活動で自分を押し殺している夏美、更には陽菜と凪を保護しようとする警察などなど。大人ゆえの生きづらさが、連日続く雨という重苦しい天気の中で展開されていく。そんな中で、主人公の帆高は光の中へ行きたいという子供じみた願いだけを頼りに家出をし、東京へ進出する。働くあてもなく、雇ってももらえず、日々減り続ける貯金。この冒頭の「東京感」の演出も絶妙だが、同時に帆高に突きつけられる現実も非常に印象的だ。

 

 

天気の子

天気の子

 

 

 

「大人になることへの反発」というのは、おそらく万人に受け止めてもらえるテーマではないだろう。世の中には30代、40代にもなって責任感の欠片もないような独善的な人々がいて、それは会社の不祥事等で度々お茶の間の話題になる。それを「子どもだねえ」と簡単に許せる人はそう多くはないはずだ。子どもだから許されるが大人では許されない、そういったことは社会に数多く存在する。それが悪事であれば肯定できないが、この物語は「世界が永遠に晴れなくたっていい! あの人に会いたい!」というえげつないほどの独善さで、物語が終わる。作中では語られていないが、雨が降り続き多くの家屋が浸水した世界ではおそらく大量の死者も出たはずだ。その結果を分かっていながら、帆高は陽菜を助けたのだ。

 

最も感動したのが「大人になれよ、少年」と帆高に現実を突きつけた圭介が、自身の境遇と重ねながら終盤に帆高をアシストするシーン。自分は大人になってしまったが、気質の似た帆高が世界を捨ててでも陽菜に会おうとする姿に心を打たれ、彼を警察から救う。夏美も同様である。陽菜に心を動かされた帆高の行動が、人々の心を更に波打たせていく。まるで波紋のように広がる感情は、彼らに社会で生きていくことすらも放棄させてしまう。「世界を敵に回してでも~」というフレーズはよく耳にするが、それをより幅広い層に届くように発展させた見事な映画だ。

 

この手のテーマで連想されるのが最新作の映像が公開されたことでも話題の『新世紀ヱヴァンゲリヲン劇場版:破』だろう。ヱヴァ破のラストで主人公のシンジは、サード・インパクトの危険を顧みず綾波を助けようとする。帆高が陽菜へ手を伸ばすシーンは正にそのオマージュと言える。ヱヴァ破はそこで終わり、次作の『Q』でシンジのその行動がやはり悲劇を生み、彼が世界から忌み嫌われているという衝撃の事実が発覚する。『破』でシンジを応援したミサト達すらも掌を返しており、このあまりの変貌ぶりには否定的な意見も多い。だが、『天気の子』では主要キャラクターの多くが帆高の行動を後押ししており、それを悔やむようなシーンもない。帆高が保護観察を終え東京に戻った後も、圭介は「あの子に会いに行けよ」と彼の背中を押す。そう、言うなれば『天気の子』は私たちが観たかった『ヱヴァQ』なのだ。

 

 

 

 

その他にも、特撮好きの私としては『仮面ライダー響鬼』を連想させるシーンがやけに多いことも気になる。自分を変えてくれる大人と船で出会うという出だしはまさに『響鬼』であり、圭介が帆高を「少年」と呼ぶのもヒビキと明日夢の関係に近い。『仮面ライダー響鬼』自体、主人公のヒビキの活躍よりも彼と出会った中学生(のちに高校生へ)の明日夢の成長がメインという異色作。頼れる大人としてヒーローを配置することで、周囲の人間の葛藤を浮き彫りにしようという意欲作だった。帆高の純粋な思いに周りが感化されていく『天気の子』とは真逆の構造だが、あまりにテーマが真逆なせいで逆に響鬼を意識してしまう場面もある。新海監督、絶対響鬼好きだろ…。

 

 

一之巻「響く鬼」

一之巻「響く鬼」

 

 

 

ネットでの意見を見ると、「9割の人には嫌われるが1割の人にはものすごく刺さる」、「賛否両論が分かれるだろう」、「『君の名は。』が楽しめた人には厳しい」という何故か他人の感情までも決めつけたような感想が多い。確かに私は『君の名は。』があまり楽しめなかったが。だが、そういった決めつけ的な意見が多いこともこの映画の話題性を示していると言えるだろう。また、私自身も「苦手な人はとことん苦手だろうなあ」と思うシーンがいくつかある。

 

というのも、この映画は言ってしまえば帆高のワガママが全てなのだ。劇中でも示される通り、陽菜一人が犠牲になれば世界は晴れる。陽菜自身もそれを受け入れ一度は人柱になるが、帆高はそれに耐えられず、世界を永遠に雨にしてでも彼女を取り戻した。そりゃあ赤の他人からすれば「一人くらい犠牲にすればいいでしょ」となるだろう。現に圭介も最初はそっち側の意見だったし、実際それが「大人の選択」というものなのだ。だが、この映画は帆高の想いが全てを変えてしまう。これを幼稚で独善的な選択とみるか、圭介たちのように「そうまでして取り戻したいものがある」と受け入れられるかがこの映画の評価の分かれ目だと思う。そう、帆高がやっていることは明らかな迷惑行為なのだ。

 

「世界の形を決定的に変えてしまったんだ」というフレーズが比喩でもなんでもなく、本当に「浸水」という形で地形を変えてしまっていたことには驚いた。また、『君の名は。』でもあった主人公の突然のモノローグ(しかも文学的すぎる)や恒例となったRADWIMPS。特に楽曲に関しては予告でも何度も聴いているため、サビに入るタイミングまでこちらはしっかり把握している。RADが流れてきた瞬間、「あ、これサビでいい感じになるやつだ!」と予想できてしまうのは少し残念。楽曲自体は悪くないのだが、1作の映画内であそこまで何度も野田洋次郎を聴かせる必要が果たしてあるのだろうか。だが、それもヒット作たる要因なのだろう。

 

『君の名は。』の大ヒットを元に見事に演出や展開を踏襲しつつ、新たなアプローチを続ける新海監督と東宝の見事な手腕には脱帽。正直、この映画が掲げるテーマが非常に私好みだったこともあるが、大傑作だったと思う。物語として斬新な部分は薄いのだが、やはりコメディとシリアスのバランス、テンポ感、抜群の映像美が脅威の完成度を生んでいる。むしろここまでくれば新海イズムが一般向け路線へシフトしたと言ってもいいのかもしれない。何度でも鑑賞したい傑作だった。

 

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