映画『ワイルド・スピード スーパーコンボ』評価・ネタバレ感想! ワイスピから飛び出したハゲ2人の戦い。

 

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思えば遠くまで来たものである。強盗団に潜入したFBIがいつのまにかそのリーダーに友情を感じてしまう第1作『ワイルド・スピード』公開当時、誰がこんな物語を予想しただろうか。リーダーのドムと元FBIのブライアンの友情はその後も続き、仲間と共に数々のミッションに挑んできた。ブライアンを演じるポール・ウォーカーが亡くなってシリーズ離脱を余儀なくされたが、それでも魅力的なキャラクターを生み出してスピンオフまで作ってしまうのがワイスピなのである。しかも一流アクション俳優のジェイソン・ステイサムと特徴的な筋肉と愛くるしさで人々を虜にするドウェイン・ジョンソンのタッグ映画だというのだから凄まじい。ワイスピなど関係なくこの2人が主役を張る映画なら大ヒット間違いなしだろうが、わざわざワイスピ過去作の展開を抑えて啀み合いながらのデコボココンビなのが素晴らしい。

ちなみに、邦題は『ワイルド・スピード スーパーコンボ』だが、原題では『FAST&FURIOUS HOBBS&SHAW』というトムとジェリー的なタイトルになっている。

配役とキャラクター、そしてワイスピという土壌、どれを取っても「最高」の二文字しか浮かばないこの作品、果たして映画自体はどうなのだろうか。

 

 

 

 

まずはワイルド・スピードシリーズについて簡単に。

1作目の『ワイルド・スピード』は上記の通りドムとブライアンが主役で、素性を隠しドムの元に潜入し徐々に彼の心を開いていくことに葛藤するブライアンの心情がメインの物語だった。そこに車要素が持ち込まれているのだが、あまり派手さはなくむしろ堅実なB級映画だったと言っていい。2作目は引き続きブライアンが登場。罪の帳消しを条件に彼と旧友のローマンが任務に挑む。3作目は打って変わって別の人物の物語。東京を舞台に、頼れる男ハンの導きと死によって成長する主人公ショーンの物語だ。

そして4作目、ここでワイスピシリーズに変革が起きる。ドムを中心とした「ファミリー」達が時に自発的に、時に政府と交渉して様々な困難に立ち向かう。リオの麻薬王やファミリーの命を狙う元軍人など、彼らはあらゆる敵と戦い、その中で失った命もあった。

 

今回の映画『スーパーコンボ』の主役を張るのはルーク・ホブスとデッカード・ショウ。ホブスは5作目での初登場時は保安官だったが、後に手違いから投獄され、8作目『アイス・ブレイク』のラストで家族を優先するため引退した。もう1人の主人公、デッカードは7作目『スカイ・ミッション』から登場した人物。6作目でファミリーが戦った敵の兄であり、弟の無念を晴らすためファミリーを執拗に狙い、手始めにハンを殺した。しかし8作目では不本意ながらドムに協力し、彼の家族を救う切り札となる。

 

どちらも人気の高いキャラである一方で、作中での2人の仲は最悪。同じ刑務所に収容された時も終始いがみ合っていた。そんな彼らが「スーパーコンボ」としてタッグを組んだスピンオフなのだから期待値はべらぼうに高い。ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムの共演、ホブスとデッカードの共闘、ワイスピのスピンオフ…、全ての要素がアドレナリンを上げに来るエナジードリンク映画だ。

 

 

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いきなり人間の内臓を破壊するウイルスの奪い合いから始まる本編。イドリス・エルバ演じる今回の敵=ブリクストンはなんと人間を超越したサイボーグだというのだから驚きである。確かにホブスとデッカードを相手にできる人間はそうはいないだろうが、まさか新たな世界を創ろうとする組織が敵とは…。しかもブリクストンの体は銃弾を跳ね返し、視界に入った相手の行動を先読みしてしまう。無人で動くバイクを使い、2人を追い詰めるその姿はまさに狩人。しかし、サイボーグを出すところまで設定が飛躍してしまって今後のワイスピは一体どうなってしまうのだろうか。

 

本編はアクション5割、悪口合戦4割、ドラマが1割といった配分。そしてとにかくアクションが凄い。カーチェイスはもちろんのこと、ホブスとデッカードが大勢相手にとにかく無双を繰り返す。互いに相手を陥れようとする場面にもこの2人ならギャグとして安心して観られるから不思議だ。対する敵は特殊な手袋でしか反応しない銃や高性能バイク、パワードスーツを武器に彼らを襲う。ただでさえIQの低いワイスピがしれっとジャンルをSFに変えてきたのだから笑うしかない。そこになかなか強いデッカードの妹まで登場して、こちらのテンションは上がられるばかり。

 

敵がビルを駆け下りるのであればこちらは飛び降りる、またはエレベーターを破壊して高速で下まで降りる。こちらの想像を遥かに超えた敵のパワーに、圧倒的な勇気で挑んでしまう2人。「スーパーコンボ」の名は伊達ではない。しかも行動を読んでしまう敵にどう立ち向かうのかと思えば、最終的に「同時攻撃だ!」となる少年マンガっぽさ。いいのかそんなので? と思ってしまうがそれでいいのがワイスピなのだ。理屈は必要ない。ワイスピはアトラクションなのである。

 

また、最先端の技術を駆使する敵に対し、ホブスが兄を含めたサモアの人々を総動員して原始的な槍や斧で立ち向かう展開もすごい。敵が頭脳派ならこっちは筋肉だ! という展開を理屈抜きにドンとやってのけてしまえる土壌がワイスピにはある。しかも過去作でホブスが娘のサッカーチームのコーチとして必要以上に鼓舞していたシーンが効いてくるというヤバさ。その間に敵が逃げられないよう周囲を火で囲むデッカード。ヘリと車を繋ぐ鎖を腕力だけで繋ぎ止めてしまうホブス。もう笑うしかない。

 

 

 

アクションが最高なのは鑑賞した人全員が思うところだろうが、この映画は演出にかなり問題がある。予告では軽快なシーンとして見せられていた2人の悪口合戦、実はこれが異常に多い。多すぎる。しかも1つ1つが無駄に長い。いかにも「面白いだろ? ずっと観ていたいだろ?」と言われているかのようだが、ただの罵り合いなので正直こちらは飽きている。しかしそれがずっと続く。アクションの合間に挟まれるだけならともかく、飛行機のシーンなんかはただ悪口合戦のためだけにあるようなもの。語彙力に富んだわけでもない罵り合い、これが非常に辛くて映画のテンポを損ねていた。『アイス・ブレイク』での掛け合いがちょうどよかったことに気を許したのだろうか。ここはさすがにセーブする場面だったと思う。

 

しかし、シリーズに共通する「家族」、「ファミリー」というテーマはスピンオフの今回も健在。デッカードが意外にもマザコンだったことが8作目で明かされたが、『スーパーコンボ』では彼の妹までもが登場。そしてショウ家の絆に後押しされる形で、ホブスも長い間疎遠だった家族に会うため故郷へと帰る。シリーズ8作品を通して血の繋がりよりも深い絆で結ばれたファミリーを描いてきた作品が、スピンオフで血縁上の家族と向き合う物語を繰り出すというクレバーさ。決してそこが丁寧なわけではないが、こういった上手さがワイスピにファンが多い理由だと改めて実感する。しかもホブスの故郷サモアの人々を全員巻き込んで戦ってしまうというとんでもない結末。やたらインパクトの強いホブスの母親も面白かった。

 

しかし、結局ブリクストンに命令を下していた敵のボスの正体は分からずじまい。ホブスと過去に因縁があるようなので、もしかしたら過去作にも登場しているかもしれない。ワイスピでは過去に登場した人物が思いもよらぬ形で再登場するのが常なのだ。ワイスピシリーズは残り2作で完結すると公式が声明を出しているが、その2作ではこの強敵と立ち向かうことになるのだろうか。できればサイボーグは勘弁してもらいたいものである。

 

結果的には、ワイスピのスピンオフというだけでなく、もはや単体作品としても十分機能してしまうド迫力のハリウッド映画だった。しかし、ホブスというキャラクターは初登場時もっと硬派な人間だったよなとか、デッカードはハンを殺してるしその後もファミリーを付け狙っていたのになんでこんな憎めないやつムーブなんだよとか、言いたいことは山ほどある。シリーズの脚本家はデッカードがハンを殺した問題についてはきちんと決着がつくと明言しているそうなので、後のシリーズで何か展開があるのかもしれない。それでもこの映画がワイスピにおけるホブスとデッカードの部分だけを切り取り、誇張した映画という点は否めない。確かにこの2人のキャラクターと関係性は魅力的だが、それはワイスピシリーズあってのもの。1作単位でここまで突き抜けた映画(しかしテンポは悪い)だと、それはそれで抵抗感がある。

 

だが、本当にアクションは素晴らしいし、ウイルスってサイボーグってなんだよ、世界を創り変えるってなんだよ!、と突っ込むヒマもなくいきなり画面が二分割されて左にホブス、右にデッカードの日常が映し出されるオープニングで本当に理屈がどうでもよくなってしまう。ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムを出会わせてくれてありがとう、そんな気持ちにさせられる不思議な映画だった。

 

ちなみに、ホブスに奇妙な愛情を抱く部下として現れた男を演じたのは『デッドプール』でお馴染みのライアン・レイノルズ。飛行機のシーンで二人の会話に参加してきた警官を演じたのはケヴィン・ハート。ケヴィンとドウェイン・ジョンソンは『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』や『セントラル・インテリジェンス』で過去何度かタッグを組んでおり、その映画も二人の個性が爆発していて最高なので未見の方は是非。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、もしワイスピ原点に立ち返りたい人がいたら、1作目の監督の最新作である『ワイルド・ストーム』をオススメしたい。程よいB級感が漂う良作である。

 

 

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