「劇場版 仮面ライダービルド Be The One」ネタバレ感想! 良くも悪くもいつものビルド

クライマックスへと突入する寸前の8月公開が恒例になっている仮面ライダーの夏映画。以前続けていたブログで、公開日当日に書いた記事をそのままこちらにも載せておこうと思う。

 

劇場版 仮面ライダービルド Be The One

映画限定のライダー・新フォーム、TV本編とのリンク、大御所ゲスト、次回作のライダー登場など、毎年恒例となっている要素もふんだんに盛り込まれ、TVシリーズで幾度となく描かれてきた戦兎と万丈のベストマッチの物語を1時間という尺で見せてくれるということで、それなりに期待値は高かった。
しかし、蓋を開けてみると良くも悪くも”いつものビルド”。「エモい」、「ガバガバ」等という言葉で表されることが多いこの作品だが、劇場版でもそれらの特徴を全く崩さない。

TV本編に関して

仮面ライダーを毎週視聴している私だが、正直ビルドはシリーズの中でもあまり面白いと思えない。登場人物の言動の不一致、エボルト一強の構成、度重なる後出し設定。しかし、4ライダー共闘など、キメるべきとこはしっかりと演出されており、そういった意味でボルテージは高まる。「明確な欠点がいくつもありながら、抑えるべきポイントはしっかりキメてくる作品」、それが私の仮面ライダービルドという作品への簡単な感想である。
天才物理学者を主人公に据え、科学のもたらす力の使い方から戦争まで、ヒーロー特撮としてはある種禁断のテーマに踏み込んだ割には、そこに対しての積み重ねが薄く、結果的に登場人物の重苦しい現実だけがのしかかる作品となってしまった。全く楽しめないわけではないが、毎週楽しみにするような感覚は完全に失われている。同じ内容を繰り返す脚本に辟易しつつも、物語の結末は見届けずにいられない。そういった、ある意味でベストマッチな視聴欲のみが私を日曜朝9時にテレビの前へと誘う。そして、果てには映画館にも吸い寄せられてしまった。
ここまで読んでお分かりの通り、私はビルドを純粋に楽しめていない。面白いというよりも面白がってしまっている。なので、ビルドの熱烈なファンの方からすると、この感想は決して受け入れられないものかもしれない。一個人の意見として聞き流してもらえればと思う。

 

いつもと同じこと

桐生戦兎と万丈龍我のコンビについては、TV本編でも幾度となくその軌跡が描かれてきた。何より、ビルドの物語は彼ら2人が出会うところから始まる。死線を潜り抜けてきた2人は、天才とバカのデコボココンビながらいつしか互いを尊重し合い、互いにとって戦う動機であり大切な仲間となった。本編ではライダーの数が増え、エボルトの圧倒的な強さにライダー達が追い詰められる展開が続いているが、映画では原点に帰って彼ら2人の物語が描かれている。よって、グリスやローグ、エボルトや内海、更には美空や紗羽の出番すら少なく、エボルトとは別の敵・ブラッド族に立ち向かう戦兎とブラッド族に操られた万丈の友情が全編を通していた。
原点に帰ったと言えば聞こえはいいが、正直なところ「またやるのかよ」という感が否めない。戦兎と万丈の関係については既に本編で散々掘り下げられている。操られた万丈を戦兎が助け、2人で敵に立ち向かうというプロットはこれまでの焼き増しにしか思えない。せっかくの劇場版なのだから、番外編的な話や別角度の物語を紡いでほしかったというのが本音である。
簡単なプロットとしては、
仮面ライダービルドが国中の人々から命を狙われる→万丈がブラッド族に操られる→伊能から真実を聞かされ絶望する戦兎→父親の真意を知り立ち上がる戦兎→万丈を取り戻す→新フォームで最終決戦
こんな様子であった。もちろんエキストラや舞台など、映画だからこそできるスケールの大きな話にはなっているが、それでもやはり”いつものビルド”。藤井隆や伊能が”あれは私の仕業だったのだ〜”と言い放つところも含め、良くも悪くもビルドでしかなかった。映画単体でも楽しめるものの、TV本編とのリンクが非常に強いため、TV本編に辟易している私にはこれが辛かった。いっそのこと敵もエボルトとは全く関係ない存在にして、TV本編とのリンクは薄くしてくれた方が好みだったかもしれない。

 

演出は圧巻

ここ最近、私の中で株を上げてきているのが上堀内監督の演出である。上堀内監督の担当回はたったの30分でも印象的な作りが多く、若手ながらの気概と野心を思う存分映像に反映させてくれる。特にハザード初登場の回の演出は鳥肌ものであった。あの回にも言いたいことがないわけではないが、少なくとも演出に関しては満点である。
そんな上堀内監督が、「平ジェネFINAL」に続き夏映画まで担当するというのだから期待値は否が応でも高まる。正直、ビルドの要素で私が苦手とするのは脚本の方(話の構造やキャラのブレ)なので、演出で印象的な画をふんだんに盛り込んでくれるのは非常に嬉しい。
今作で圧巻だったのは、「群衆から逃げる仮面ライダービルド」の演出である。仮面ライダーは基本的に人を守る存在なので、敵に操られた人間などには危害を加えることができない。そのため、戦わずして逃げることになる。こういったパターンはシリーズでも何度かあった。しかし、操られた人間は大概が顔に奇妙なマークをつけられ、キョンシーのように手を前に出し、「仮面ライダーを殺せ」と呟きながらのっそりとライダーを囲み込むという黎明期のゾンビに近い演出がされていたように思う。特撮に馴染みの深い方なら連想されるシーンがいくつかあるだろう。しかし、本作での操られた民衆は、全員が全速力&超絶アクションでビルドに襲いかかる。人々は正気を失うわけではなく、全力でビルドを殺しにかかるのである。最近では走るゾンビも珍しくないが、ヒーロー映画でこの演出は斬新であった。しかも、子どもが怖がらない程度にコミカルに描かれているのが上手い。ホラーとコメディを上手く調合し、怖いけど可笑しいという奇妙なバランスの上に成り立った名演出だと思う。
ただ、ラストのCGバトルはいただけない。クローズビルドという映画限定フォームも敵の仮面ライダーブラッドもかなりカッコいい仕上がりなのに、その良さをあまり活かせていないように感じた。ライダーの映画はラストバトルでCGをこれでもかと使う作品が多いが、正直この風潮にはあまり慣れない。せっかくのクローズビルド、もっと落ち着いた演出で戦いを楽しみたいというのが本音であった。
また、戦兎と万丈が並び立って変身というのを期待していただけに、戦兎が勝手に変身し、巻き込まれる万丈という構図にもガッカリした。2人の戦う決意が改めて描かれるというのであれば、やはり同時変身が観たかったところ。しかも戦兎と万丈が仮面ライダーダブルよろしく、2人で1人の仮面ライダーになるというのだからここはキメてほしかった。何なら2回変身があっても良かった。

その他モヤモヤ

①クローズビルド缶
戦兎と万丈についての物語で、彼らが絆を再確認することでクローズビルドへと変身すると予想していて、ある程度それに則った形ではあったが、クローズビルド缶の誕生にベルナージュが関与するということに疑問が。いつも大体新アイテムは戦兎の開発なのでそれと別の出自というのはいいアイデアなのだが、万丈と融合(?)して死亡疑惑すらあったベルナージュが突然出てきてアイテム混ぜ混ぜ〜というのは、いかにもビルドらしいというか。そこに必然性が見られない上にテーマとズレてしまっているのが残念。

②実は俺の仕業だパターン
先程も少し述べたが、ビルドは「あれは俺の仕業だ(エボルト)」のパターンが多過ぎる。敵の掌の上で転がされていただけで、桐生戦兎は作られたヒーローでしかないというプロットは好きだが、エボルトがその先を行き過ぎている。エボルトの計画通りに進むことが多すぎてヒーローがそれを打ち砕くカタルシスに乏しいというのが本音。劇場版でもそれが不安要素だったが、案の定藤井隆が「万丈の恋人をスマッシュの被験者に選んだのはワイや」と言い出したので興醒めであった。その後も伊能が「戦兎と万丈を引き合わせたのは私だ」と。正直またこのパターンをやるのか〜という思いが強い。そしてその事実に絶望する戦兎。戦兎は同じようなどんでん返しに何度落ち込めば気が済むのだろうか。これくらいの事実開示ならへこたれないくらいのメンタルをそろそろ身につけてほしい。「それがどうした!」と言い張れるくらい強くなってほしい。TV本編でも似たような展開が続く上に説得力が足らないと感じているので、やはりここが劇場版の最も残念な点である。

 

まとめ

良くも悪くもいつものビルドであり、大した衝撃もなく、映画としての旨味もなく、演出に助けられたような作品であった。本編も同様の印象に落ち着いているため、そういう意味でも完全に”いつもの仮面ライダービルド”である。TV本編ではキャラのブレと言動不一致を酷く感じるため、いまいちキャラクターを掴めないでいるが、残り3話でそれが片付くとは思えずやはりそこは割り切るしかない。宇宙規模の強大な敵・エボルトに4人の仮面ライダーがどう立ち向かうのか、非常に興味深いが故に脚本の粗が目立つのがどうにも残念な作品である。既に気持ちは次回作のジオウに向いてしまっているものの、彼らの戦いがどのような結末を迎えるのか、しっかりと見届けたい。