映画『マーズ・コンタクト』評価・ネタバレ感想! 見せたいことを絞れなかったのか…

 

マーズ・コンタクト [DVD]

 

開始数分で気づいてしまった。「あ、予告詐欺案件だ!」と。予告詐欺案件とは、海外の映画が日本で公開もしくは発売されるにあたって、独自に作られた日本語版予告がもたらすイメージと本編の内容がまるで異なる案件のこと(私が作った言葉)。映画の盛り上がる部分を勝手に誇張して宣伝することで、完全にネタバレになってしまうこともしばしば。まあ観てほしいという思いがそうさせてしまうのだろうけど、わざわざお金を払って観たこちらは詐欺に遭ったような感覚に陥ってしまう。しかし、私はそういった側面も含めてTSUTAYAで適当にB級映画を借りることはギャンブルだと思っているので、ダメージは少ない。それにこの映画、全く面白くないわけではないので!

 

まず『マーズ・コンタクト』という邦題が詐欺。この邦題と予告編から、火星に1人取り残された男が火星人と接触するという内容をシリアスに描く作品なのだろうと予想していたが、肝心の「火星人とのコンタクト」までが非常に長い。火星で1人というとやはり思い浮かぶのが『オデッセイ』だが、実は想像以上に劣化オデッセイの印象が強い。というのも火星に取り残された側だけではなく、宇宙ステーション側の動向もしっかりと尺を取って演出されるのだ。「火星に置き去りにされた彼を、なんとしても助けなくては!」という使命にかられたステーションの所長の方が、火星側の主人公よりもキャラが立っている。ハゲているので顔も覚えやすい。

 

映画は他のクルーを助けるために手動で実験モジュールを切り離しチャパエフが火星に降り立つシーンから始まる。そこから約40分に亘って繰り広げられるのが、宇宙ステーション側のどうしようどうしようという試行錯誤。それに加え、怪しげなテレビ局の社長からステーション所長に電話が入り、チャパエフとの通信の模様を実況中継したいという。要はテレビ局側はチャパエフをヒーローとして祀り上げることで、マスコットキャラクター化し視聴率を上げようと考えていたのだ。その目論見は見事成功し、火星に取り残された男とのインタビュー映像は国民に大人気。しかし、問題は火星側の電源が日に日に少なくなっていることと、チャパエフが明らかに衰弱していっていることだった。

 

それもそのはず、実はチャパエフは火星に降り立った瞬間から謎の声を聴くようになっていたのだ。チャパエフはそれを火星に存在する者たちの声だと主張するが、地球側に送られた映像は何も感知していない。ステーションのクルーは、チャパエフの精神がおかしくなってしまったのだと解釈する。しかし、そのうちに一人のクルーが音波を検知し、チャパエフの言葉が真実であることを知る。一方チャパエフは、通信を遮断してしまう。

 

チャパエフの行動で追い詰められたのがテレビ局。人気番組をこんな形で終わらせるわけにはいかないと、モーションキャプチャーと合成によってチャパエフの映像をリアルタイムで捏造しようと企む。突然ひょうきん者になり独自のブランドまで立ち上げた彼に視聴者は少し戸惑うが、人気はぐんぐんと上昇。もはや国民的大スターとして君臨していた。一方所長は、予算の面で政府との交渉が決裂し、チャパエフ救出作戦が絶望的になったことに悩む。そして、彼の勇気ある行動と悲劇的な境遇がテレビ局のおもちゃにされていることに怒り、遂に警察に通報。放送中に突然画面が切り替わり、番組がヤラセであることが世界に伝わった。その途中、トラブルにより肩を撃たれてしまう所長。

 

事件の後、火星にあったチャパエフが住んでいるはずの実験モジュールが爆発したと中継が入る。チャパエフは火星の生命と接触したことで、以前から追い求めていた「生命とは何か」という答えの手がかりを手に入れたのか、彼らの元へ行く決断をしたのだ。

 

所長のナレーションが多い時点で嫌な予感はしたが、全体的に非常にテンポが悪く、また正直主役が誰なのかもわかりづらい。勧善懲悪ではあるものの、火星人との接触とテレビ局という巨悪との対峙がうまく噛み合っていないせいで、どのキャラクターに心情を寄せればいいのか分からなくなってしまう。構成する要素の一つ一つはとてもいい。火星で声を聴いたチャパエフが地球からは変人扱いだったり、チャパエフをヒーローとして祀り上げ金儲けを企むテレビ局だったり、チャパエフ救出が不可能になり苦悩する所長だったり。食材はいいものを仕入れているのに、調理の段取りがうまくいかなかった印象だ。

 

しかし、この終わり方ならもっとよくできただろうとか、所長の苦悩を中心に据えていればとか、残念な点があまりに多く擁護できないというのが本音だ。シーンが分散してしまっているせいでリアリティが薄いのも残念。せっかく『オデッセイ』の劣化版なのだから少しはポジティブな気持ちにさせてくれてもいいのに。いろいろ問題はあるが、要素自体はいいので可能性は感じた一作。