本を馬を犬を駆使して生きようと藻掻く男の生き様 映画『ジョン・ウィック:パラベラム』評価・ネタバレ感想!

ジョン・ウィック:パラベラム

 

失礼な話ではあるが、人が必死になって生きようとする姿がどこか滑稽に見えることがある。この『ジョン・ウィック:パラベラム』にはそういう瞬間が何度も訪れる。思い返せば、1作目の時点で愛犬を殺された男の復讐劇と宣伝され、なんだそれと可笑しくなってしまった記憶がある。実際には最愛の妻を病気で亡くした失意の男が、妻からの最後の贈り物である愛犬を殺されたという背景があるのだが、確かに「犬を殺された男の復讐」も間違っていないのが面白い。しかし、そんなふざけたスタートから繰り出される物語は非常に重苦しい。妻を失い、犬を殺され、車を奪われた元最強の暗殺者が本気を出して殺しに向かってくる。当時話題にもなった『ドント・ブリーズ』にも通ずる面白さと、『マトリックス』以降どうもパッとしなかったキアヌ・リーブスが挑んだ本格アクションが功を奏し、大ヒットにつながった。

 

続く2作目では、誓約を破ったジョンが家を焼かれてしまう。何がすごいって劇中では犬を殺されてからたった5日後の話なのだ。これにより、文字通りジョンは全てを失うことになる。そして、再び復讐が始まるのだった。しかし、『チャプター2』のラストで彼は裏社会の掟を破り、絶対に殺しをしてはいけない裏社会の人間御用達のホテルでターゲットを殺害してしまう。裏社会から追放され、その首に1400万ドルという大金を賭けられた彼が愛犬と共に町から逃げ出そうとする場面で物語は終わる。3作目に当たる『パラベラム』はそこから地続きの物語だ。追放まで1時間の猶予を与えられたジョンは、育ての親であるディレクターの助けを借りるため、彼女との誓いの印である十字架を求めて図書館へ赴く。しかし、そこには既に追手が迫っていた。猶予の1時間を待たず襲い掛かってくる大男に対し、ジョンは手に持った本を武器にして戦う。その後も馬を駆使し、ナイフを投げまくり、追手から逃れようとする。しかし、今回のジョンの敵は世界中の暗殺者。言うなれば、彼は世界を敵に回したようなものなのである。

 

冒頭に書いた「滑稽なシーン」というのは、ジョンが戦っているシーンが多い。1作目から更に洗練されたガン・フーや殴り合いは美しく映えるが、ジョンは時に丸腰のところを襲われることもある。そんな時、彼は近くにあるものを何でも武器にしてしまうのだ。冒頭では本で相手をボコボコに殴り、馬小屋に入った時は馬の尻を叩いて足を上げさせて敵を攻撃、そのまま乗馬してその場をやり過ごし、近くに展示されたナイフがあれば、ショーウィンドウをすぐさま粉々に砕きナイフを投げまくる。元暗殺者の彼には躊躇がなく、寡黙であるためにセリフも少ない。クールな男が叫びながら敵にナイフを浴びせるその姿がどこか滑稽に見えてしまうのだ。しかも今回のジョンは自らが破った「ホテルでの殺し禁止」というルールを盾に取り、ホテル入り口の階段に手をかけることで敵の暗殺者・ゼロの行動を止める。まるで野球である。しかし、その泥臭さこそジョン・ウィックシリーズがキアヌ・リーブスを再び一大スターへと輝かせた理由なのだと私は思う。

 

言うまでもなく、ジョン・ウィックのシリーズ通じての目的は引退である。妻と出会い、共に生きるために引退したはずなのに、その妻はあっさりと死んでしまい彼は行き場を失くした。一人でもせめて穏やかに暮らそうとしていた彼の前にチンピラが現れ、犬と車を奪ってしまう。その復讐を果たした後は再び仕事を依頼され、断ると家を焼かれてしまった。これまた復讐を果たしたが、今度は裏社会から追放され、命を狙われる羽目になる。一人の人間をここまで追い詰める状況があるかというくらい、悲惨な人生を辿ってきている。いくら映画とはいえ、毎回毎回何故彼がこんな目に遭うのかと気の毒になってくるレベルだ。しかし、目的のためなら彼は手段を選ばず、決して諦めない。過去2作では復讐を、今作では引退を目標に掲げ、そのために持てる限りを尽くす男の生き様は時に滑稽で時に美しい。流れるようなガンアクションも、本でのタコ殴りも、馬に人を殺させるのも、全ては自らの目標のため。ここまでエゴを突き詰めた男がとんでもなく強いというのだから、カリスマ性も半端じゃない。彼は生きるために戦い、逃げ、本で人を殴り、ナイフを投げるのだ。

 

漆黒のスーツに身を包んだ男を突き動かしている感情は、決して褒められたものではないかもしれない。しかし現実社会で他人と折り合いをつけるためにどこか妥協する毎日を送る人々の目に、彼の生き様は美しく映る。自分の目的のために、全力を尽くす。たとえそれが滑稽であろうと関係ない。彼はただ、彼のために戦うのだ。ちなみに、本作ではジョンが生きたいと願う理由を吐露するシーンがある。彼は愛する妻との思い出を消さないために、必死に生きようと足掻いていたのだ。妻も犬も車も家も失った彼に最後に残されたのは、愛する妻との記憶だけだった。しかし、その過去は今を生きる原動力となっている。なんとも感動的な物語ではないか。

 

しかし、彼はまた今回大切なものを失ってしまう。それは薬指である。指輪を嵌めたその指を映し、彼が裏社会への復讐を誓うラストシーンはとてもよかった。シリーズは次回で完結だろうか。次はどんな戦いを見せてくれるのか非常に楽しみである。

 

 

ジョン・ウィック:パラベラム

ジョン・ウィック:パラベラム

  • アーティスト: タイラー・ベイツ& ジョエル・J・リチャード
  • 出版社/メーカー: Rambling RECORDS
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: CD
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キアヌ(字幕版)

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