襲い来る動物たちのリアリティに戦慄! 映画『アニマル・パージ』評価・ネタバレ感想!

 

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2019年8月末、多摩動物公園にて、飼育員がサイに襲われて死亡したという事故があった。動物園の動物は人々にとって親しみやすい存在であるし、動物園側も動物について知識を深めてほしいという意識がある。その反動もあり、この事故はショッキングな事件として話題になった。檻や柵越しに観察するせいでキャラクターと見做されてしまうこともあるが、動物園の動物たちは言わずもがな生物なのである。中には人間よりもはるかに優れた筋力や脚力を持つものもいる。もしそんな動物たちが人間に牙を剝いたら一体世界はどうなってしまうのか…。そんな潜在的な恐怖を映像化したのがこの『アニマル・パージ』である。

 

ある動物園で飼育員がホワイトタイガーに襲われる事故をきっかけに、動物たちが次々と暴走。最初は犬や猫、次に大型の哺乳類や鳥類、最後は虫までもが人々を襲い始める。前代未聞の大災害に立ち向かうのは動物学者のアリックスと、事件に巻き込まれた動物オタクの青年ユリシーズ。この2人が襲い来る動物たちを退けつつ、事件の真相に迫る物語となっている。

動物の暴走といえば、『ZOOMBIE ズーンビ』という映画が思い浮かぶ。突如ゾンビ化した動物たちがこれまた人間たちを襲うようになるという作品なのだが、なにせ全て雑なCGで処理されている動物たちのせいで物語にのめり込めない。一番のウリである「ゾンビ化した動物」という要素に視覚的にも作品的にも全くリアリティが感じられず、世間ではB級を通り越してC級の作品とされている。そんな『ZOOMBIE ズーンビ』の続編が今度日本に上陸するらしいのだが、果たして…。また、漫画では『ジンメン』という作品がある。タイトルは「人面」に由来しており、人の顔がついた動物たちが人間を襲撃するという話。この作品に出てくるジンメンたちははっきりとした意思を持っており、人の顔を持っているので人語を介する。行き当たりばったりの展開や、突然能力バトルものにシフトしたことであまり評判は芳しくないが、それなりに楽しめる作品ではある。

 

 

ZOOMBIE ズーンビ(字幕版)

 

 

 

ジンメン(1) (サンデーうぇぶりコミックス)

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この2作と『アニマル・パージ』が異なるのは、動物たちのリアリティである。ズーンビはゾンビで、ジンメンは意志を持った特殊な動物なのだが、今作に登場するのはナチュラルな動物たち。あるウイルスによって洗脳されてはいるものの、兼ね備えた野生の力を存分に発揮することで人々を死に追いやる。CGのみの登場となる動物もいるが、中には本物の映像が使われていることもあり、それなりにリアリティもある。犬や猫に対して、噛まれるんじゃないか引っ掻かれるのではないかと怯えた経験のある人なら、きっとこの映画を楽しめるはずだ。

 

特殊部隊は1匹の猫に全滅させられ、飼い犬たちは徒党を組んで人間を噛み殺す。カラスの群れは窓に突撃して住居に侵入し、ハゲワシは死体を啄む。普段何気なく接している動物たちも、何かのキッカケで人間を襲うようになるとここまで恐ろしい存在へと変貌してしまうのか、と半ば感心してしまった。ワンちゃんがズラリと並ぶようなワンシーンにここまで恐怖を掻き立てられることがあるだろうか。挙句にはCGだが象や熊まで登場する。リアリティにこそ欠けるものの、笑いを排したシリアスなシーンの連続に思わず息を呑む。制作陣の、動物をお前らのトラウマにしてやるという絶対的な意志が感じられる。

 

動物保護団体の登場も面白い。動物抹殺を主張する市長に対し、市庁舎に乗り込んで抗議するのだが、大量のカラスや犬に襲われてすぐさま掌を返す。キャラクター自体は立っていたので、モブの犠牲者になってしまったのが惜しい。日本でも東北なんかで人里に降りてきた熊を射殺すると、遠くの地域に住む人から「動物虐待だ」と抗議の声が入るらしいが、今一度その熊のいる地域に住む住民のことを考えてみてほしい。この映画を見せて勉強してもらうのもいいだろう。

 

ただ、圧巻の映像とアイデアに富んだ殺戮シーンとは裏腹に、ストーリーは呆気ない。何を隠そう、全体で71分しかないので、かなり杜撰な物語になってしまっている。娘を助けに行ったアリックスの代わりに、研究所に血液サンプルを運びに行ったユリシーズだったが、熊に襲われた際に誤ってそれを落としてしまう。ガラス容器ごと掌で押しつぶした衝撃で、傷口から血液サンプルが入り込む。数分後、目の前にいた熊は突然ユリシーズを襲うのを止めて、身を翻した。一方のアリックスは研究所にたどり着き、全ての発端が動物園にやってきた新種のゴリラであることに気づく。麻酔銃で眠らせようと刑事と共に出発するが、ユリシーズに妨害されてしまう。血液サンプルが体内に取り込まれたせいか、ユリシーズは意思疎通を拒み、獣のような動きで2人を翻弄する。結果、ゴリラは刑事によって撃たれるが、ユリシーズは瀕死のアリックスを引きずり、どこかへと歩いていく。振り向き、目を見開いた彼のカットで映画は終了する。

 

ラストシーンは説明がないため様々な解釈が可能だが、個人的にはユリシーズはゴリラ

の代わりに動物たちを導く新たな先導者として覚醒したのではないかと思う。正気に戻ったのであればもっと異なる演出があるはずだ。きっとあの世界ではこの事件は終わることなく、動物たちは未だ人間を襲い続けているのだろう。ゴリラを倒してハッピーエンドだと高を括っていただけに面食らった。どちらがいいかと言われると、やはり変に分かりづらいエンディングよりかは、ゴリラを倒して終わってくれた方がよかったのだが…。

 

あとは、せっかく動物学者と動物オタクが主人公なのにその知識を活かす場面がほぼ皆無だったことが気になった。特殊部隊も歯が立たない凶暴な動物たちに対し、知識を用いて対抗し2人が人々を先導していくような内容を期待していたので、ただ逃げ惑うだけの物語だったのは残念だった。

しかし、そんなマイナスポイントを含めても、やはり動物たちの襲撃という恐怖が勝る。できれば次回作を期待したいところだ。

 

 

 

 

 

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